甘いスコール



(・ロデオでお互い病んでる感じ/ゆゆ様)


ギュウと抱き着く名前の頭を撫でて今日も俺達は溺れ合う。互いの首を絞めるように、言葉を投げかけ合う。名前と俺は、恋人同士だった。ギリスとメイアの様にお互いを大事にして生きていた。だが、あの二人と違う所はメイアとギリスはどちらかが死んでも生きて欲しいと思っている所だ。所が、俺達ときたらどうだ?俺たちは、違う。どちらかが死ねば、片割れの如く、自決すると決めているのだ(若しくは死ぬ間際に殺そうと)。俺たちは大人になんか成れなかった。だから、短い寿命の中で愛しいと本気で思える存在に出会えたことは奇跡のようなものだった。「はっ、はあ、げほっげほっ!」深く名前が空気を吸い込んだ。そして咳き込んだ。ああ、ちょっと長かったかな、って思った。俺は首から手を離すとくっきりと赤い痣が出来ていて、暫く消えないだろうな。と思った。「わりぃ。ちょっと長く首を絞めすぎたな」



これはたまに行う事だった。別に本気で殺してやろうとか思っているわけじゃなくて予行演習の一環と言うか、いざという時に冷静に、殺せるようにと。だから、たまに俺も首を絞められる。別に咎めることなどない。ちょっと苦しいだけだ。俺と名前はザンに所属しているから、パワーには自信はあるのだが、綺麗に殺せる方法はあまり知らなかった。街を破壊する序でに、古い人間を殺すのだが、その時だってグシャッと潰れたトマトみたいに無残で跡形もなく原型をとどめない。これは、俺にも言えるし名前にも言えることだった。元々ザンに所属する奴らはパワータイプの超能力に目覚めた者が多かった。確かに、力を使えば間違いなく俺も名前も確実に死ぬと思う。だけど、それじゃ、愛しい名前の死体が見られないから嫌なのだ。原型を留めず跡形もなく消え去ってそこに血だけが残った時、それって果たして名前と呼べるのだろうか?



否、呼べないと思う。だから、俺達は原始的な方法で演習を行う。「ロデオ、大好きだよ。ロデオしか居ない、ロデオだけが私にとっての世界だから。だから、ロデオが死ぬときは私も一緒、私達は何処までも一緒だから。私を置いて行かないで」切なげな声が絡まった。「俺だって同じだ。俺にとって一番大事なのは名前だ。だから、他の奴になんか殺させやしない。そんな奴、全員俺が排除してやる。排除できない時は俺が殺してやる。その後は必ず後を追うからな」そう言って嬉しそうに目を細めた。俺の大事な物を構成するのは、名前が占めていた。だから、名前の居ない世界なんて考えられないし、そんな世界無くていいのだ。マスクを少しだけ降ろして、唇をそっと重ねた。「んっ」少しだけ愛らしい声が聞こえた。



いつまでこの温もりはあるのだろう?少なくとも十年とかは持たないことくらいわかっている。……わかっている。だけど、たまに縋りたくなる。これから先も本当は名前生きたい。俺たちが救われないのは仕方ないことだって言い聞かせて、わかったような顔をして、短い人生に縋っている。ゆっくり唇を離して、ペロリと唇を最後に舐めて、マスクを元の定位置に戻した。恍惚とした表情で名前は俺を見ていて愛しげに名前を呼んでまだ幼い子供が親に縋るように俺の体に縋った。「ロデオ、ロデオロデオ……」「どうした?」「ロデオが居れば私は何も要らない」ほろり、涙を零した。わかっているんだ……。本当は名前が生きたいと思っている事。名前は壊す事しか知らなかった俺が初めて愛しいと思えた相手で、初恋で、最後の恋だった。俺たちは互いに依存しあっていて、どちらかが欠けてはもう生きていけない領域にまで達していた。だから、お互いを害することで最後を終えようと思うのだ。フィナーレは近い。



ああ。負けたのか。暫く俺たちは冷静に自分たちの置かれている立場と言うものを考えた。ワクチンを打てといってくる爺ども。俺たちは撓むように、受け入れた。注射針が俺の体を刺した。痛みは無かった。そして、俺達は普通の子供に成った。視界がクリアに成る。……名前が俺の事をきつく抱きしめた。「ロデオ!」「名前、俺達は生きられるんだ!」これで、名前を殺す必要なんて無くなったのだ。晴れ渡る空を見上げて俺は泣いた。だって、俺達は生きたかったから。お互いの傍にただ寄り添って生きていたかっただけだから。でも瞬間、不安が心を覆った。「他の男なんて見るんじゃねェぞ」そう言って両手で目隠しした。「うん。ロデオもね?」そう言って名前が俺の目を覆った。



俺達は、今学校って所に居る。分からない事ばかりだったが、特に不満は無かった。俺たちは互いの事しか見えていない。「他の男に目移りしたら名前の事、殺していいか?」「ふふっ、私ロデオが他の女の子に目移りしたら監禁しちゃうかも」目は暗い深淵のような仄暗さを宿していた。俺たちは首を絞め合うことはなくなったが、矢張り見えない手で首を絞め合っていると思った。「いいぜ。俺は名前の事しか見えない、あの日からずっと」首筋に顔を埋めた。


Title 約30の嘘

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