君は僕の孤独を奪っていくよ



寂しいの。それだけが私の原動力だった。寂しい、その感情に振り回され多くの人を巻き込んだ。時に、尋ねるが寂しいと思ったり、その穴を埋めようと思った際に、何を使い埋める?答えは単純明快。誰かが傍に居ればいい。それだけ。でも、その誰かは特別でなければいけない。ただの友達なんかに深夜に電話やラインを送れば迷惑だと思うように、それだけ気を付けて特別な誰かを据えればいい。そして、出来た何人目か忘れた彼氏、誰だっけ……えーと、……ああ、そうだそうだ。井吹君だった。名前すら出てこないなんて本当にどうしようもない奴だ。告白は向こうからだった。私はビッチとか酷い言葉を浴びせられているのによくもまあ、告白しようだなんて思えたな。って思った。実際体目当てでも構わなかったから、ビッチと呼ばれても何も言い返せないのだが。



体目的でも大丈夫な理由の一つとして、その瞬間が満たされるからだった。好きとか愛しているとか、その場限りの言葉だと知りながらも心はその時だけ満たされたから。何度男に抱かれただろう。最初の抵抗感は何処へ行ってしまったのだろう?井吹君もそういう人間なのかなってちょっと軽蔑半分に尋ねてみたら、俺は違う。と断言した。益々わけのわからない男だなって思った。「私って面倒くさいよ」「ああ、俺は捗々しいからな。気にしなくていい」そう言われてしまえば、もうこれ以上言葉は要らない気がした。だから、私は彼に遠慮なく依存出来た。ずるずる泥沼に嵌って行くように、嵌って行った。井吹君は何処かへ行く様子は無かった。安心してその泥沼に浸っていられた。



宗正君。いつのまにか名前で呼び合うように成っていた。「寂しい」と呟けばすぐに来てくれて、私を甘やかしてくれた。だけど、不意に気が付いた。このままでは優しい宗正君まで駄目に成る。って。その時だった、別れを切り出したのは。「宗正君別れよう」「へ、……え?」フリーズした宗正君と時が息をしていないのを確認しながら、この澱んだ空気を、汚染された空気を正常に戻すために吐きだした。「このままじゃ、宗正君も駄目に成るよ」初めて人を気遣った瞬間だった。今まで誰かの為に依存するのをやめなかった私が今、それは駄目だと、宗正君も駄目に成ると言っているのだ。なんて可笑しいんだろう。なんて滑稽なんだろう!



瞬間、バスケをやっていて、今はゴールキーパーを務めている、彼の大きな手のひらが、私の肩を強く掴んだ。「俺はもうお役御免ってか!?」「ちが、」息をするのが苦しい、心臓を弄ぶように悪魔がフォークで刺しているみたい!ひゅーひゅーと頼りなく、息が漏れていくのを感じながら私は初めて宗正君の前で泣いた。ぽろぽろ。双眸から零れていく。「だって、宗正君が好きだから」ああ、そうか、私は初めて人を好きに成ったのか。だから、宗正君が堕落していくところを見たくなんか無かったんだ。自分みたいな人間と一緒にされるのも嫌だったんだ。「じゃぁ、どうしてなんだよ!」納得のいかない、宗正君が更に詰問してくる。「私と居たら駄目に成っちゃうからぁ……」「駄目に成ってもいい」「へ?」



私が間抜け面を引っさげたまま。宗正君のことをパチクリと瞬きながら見つめた。「俺は、別に平気だから。だから、ずっと一緒に居てくれ」「……有難う」馬鹿な宗正君。荒涼な宗正君。私は折角離してあげようと思ったのに。もうその痩身にも見える屈強な体、二度と離してあげられないよ。それでもいい?大丈夫?ねぇ、今寂しくないのは、宗正君のお陰なのかな?だとしたら凄いね。まるで魔法使いみたい。宗正君大好き。



Title トムボーイ

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