寂しさの底にて泳ぐには



プルルルル……プルルル、ただいま、お電話には……ガチャ。ツーツー……虚しい電子音だけが響く。くそ、くそ!なんで出ないんだよ!何度も電話をかけても出てくれない名前に苛立ちを覚えながらやり場のない怒りに、身を任せて壁を強く殴った。痛みが伴ったが今の自分を冷静にさせるだけの痛みではなかった。正気になんか成れやしない。くそ、くそ!今名前は誰と逢って誰と何をしているんだろうか!まさか、男と逢ってやしないだろうか?そんな、身を滅ぼすような、自滅的な妄想。妄想はやがて自身を蝕み、もうそんな妄想しか出来なくなってしまう。俺は名前の彼氏なのに、何で。暫く経つと、怒りよりも寂しさが先行していき、今度は何度も電話をかけながら、留守電に寂しい、名前、逢いに来て。等と女々しい事をいれてしまう。



寂しい、寂しい。膝を抱えて、めそめそしてしまう。泣きはしないが、寂しくて感傷的に成ってしまい、どうせ、自分みたいな男なんて捨てられるんだ。とか、そんなことばかり考えてしまう。悪癖だ……。悪循環だ。不意に聞き馴染んだメロディーが流れて俺はスマホに飛びついた。「名前?!」電話越しに名前の声が聞こえた。「龍崎?どうしたの?こんな時間に。さっき気付いたんだけど、今日友達と遊ぶって言っていたじゃない」短い針は八の数字をさしていた。そういえばそんな事を言っていた気がする。迷惑をかけた気がして俺は直ぐに謝った。「悪かった。そういえば、そんな事言っていたな、」



「ふふっ、龍崎。部屋の窓からカーテン開けて覗いて御覧」そう言われて、俺は戸惑いながらも覚束ない足取りで、フローリングの床を踏みしめて、カーテンを勢いよく開けて下を見た。下には名前が居て、俺を見るなりニッコリと嫣然と破顔して、手を大きく左右に振った。俺は、急いで、階段を下りて行き玄関の扉を開けて名前に勢いよく抱き着いた。「りゅうざき!?」吃驚したように、声を大きく上げたので、俺はきつくきつく、腕の拘束を強めた。「ぐえ」「名前逢いたかった!寂しかったんだ。ずっと電話を鳴らしたのに、出てもくれないし。俺何かしたのかなって、ずっと思っていたんだ。でも、どうして来てくれたんだ?」



俺の問いかけの答えは簡単だった。「龍崎が来いって言ったから来たんだよ。驚かせようと思って、こういう形にしたけれどね。腕は切っていない?大丈夫?」「ああ、名前と約束したからな。ごめん、有難う」そうして、俺の小さな心は大量の水で溢れんばかりに満たされるのだった。名前愛している。

Title 約30の嘘

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