この次元で会うことはもうないね



(メサイアコンプレックス夢主)


貴方は出来ない子、そう言われてきた。小鳥が囀るようにその薄桃の唇は残酷に、響いた。俺は出来ない子、一人じゃ何もできない。だから、いつも傍らに名前が居る。ただ、俺に的確なアドバイスだったり、そんなことも出来ないの?って言って、俺の分までやってくれる。一生一緒だと思った。俺たちは明らかにクラスの中で浮いていて、異質な存在だった。勉強を良く見てくれた。サッカーも、弱小だしキャプテンも成り行きで成ったけれど、強いシュートは打てない。寂しいと思ったことはなかった。名前がいつも傍に居てくれたから。また、名前が俺を救ってくれる。名前の瞳が愉悦に歪むのを見た。その時、俺は気づいたのだった。否、元から何処かで可笑しいなとか、変だな。とか思っていたけれど確信めいたものに変ったのだった。



名前はメサイアコンプレックスというものに近いのかもしれない。駄目な俺の為に存在して、駄目な俺を救済することに快楽に似たものを得ていたのだろう。だから、精神が崩壊したのだ。俺は、弱小だったサッカー部に来たフィフスセクターの勧誘を受け入れていた。皆このままじゃ駄目だと思っていたのだろう。キャプテンも受け入れて、皆も受け入れた。俺たちはゴッドエデンと言う所で過酷な、訓練を受けた。一部のメンバーは、化身を出せるようにまで成った。俺は……俺は……、出せなかった。教官たちからの痛々しい程の、視線が突き刺さった。「浪川……これ以上は無駄だ」教官が俺を止める。まだだ、まだ、俺は、やれる。そう言ってサッカーボールを蹴りつけたが、化身は出る気配も無くて。



悔しくて、堪らなかった。先に覚醒した、湾田達に話を聞いた。意識を集中させて、精神の乱れを正さなければ成らないらしい。そして、俺は掴み取った。不意に、荒々しい海の波の様なそんな化身。海王……と言われた存在が居たのを思い出した。俺はこの化身にポセイドンと名付けた。ポセイドンのお陰で俺への教官たちの扱いはグッと良くなった。そして、学校に帰ってもいいって成って、初めて名前の元から飛び立てるのではないかと思ったのだ。俺はもう、弱い俺なんかじゃない。強い化身も居て、雷門野郎をぶっ飛ばすだけの力を持っている。しかもメンバーは全員、シードだ。統一も取れている。訓練のお陰で、俺はキャプテンとしての自覚も芽生え、動きが格段に良くなった。



勉強は相変わらずだったけれど、名前から脱却するためには、必要だったから勉強した。必死に、頭の中に叩きこんで。漸くこの間のテストの結果でいい点数を弾き出し、頭の悪かった俺は先生に凄く褒められた。名前が酷い目で俺を見てくる。だけど、関係なかった。俺は少しずつ依存していた、名前から離れて行った。そして、完璧に必要がなくなった。「今まで有難う、名前。俺はもう一人でやっていけるよ」ボロボロに成っても、何度でも立ち上がろう。何度だって俺は死んで何度でも甦る。それは不死鳥の如く。瞬間、名前が樹の枝が雪の重みに耐えかねてしな垂れるように自然に頽れた。



浪川が、私を必要としなくなった。あんなに出来ない子だったのに、いつのまにか気が付いたら、頭も良く成っていて、サッカーだって、あんなに下手くそだったのに。化身まで出せるように成っていた。私は出来ない浪川の事が凄く好きだった。私を頼るその少し骨ばった手が、私を探し求めて彷徨うのが好きだった。頼りない声音で私の名前を呼ぶのが大好きだった。「う、そ……」私を捨てるだなんて。今までの恩を忘れたって言うの?それとも、……何に気付いたというのだろう?私は今まで浪川を惜しみなく援助してきたつもりだった。なのに。なのに……。私は、



寂しい。寂しい、寂しい、寂しい、寂しい。本当に出来ない子はどっち?今は私は浪川よりも頭が悪くて運動も出来なくて話も出来なくて、何もできない。浪川は振り向かない。こちらを見ない。こっちを見て、お願い。助けて。呼吸が苦しく成って、嗚咽しながら、私はその場で泣き崩れた。浪川は、全てを克服したのだ。あんなに苦しい世界で何度も荒波に飲み込まれながらも何度も立ち向かって、何度も立ち上がった。そして、私を必要としなくなった。傷を作った大きな瞳。出来ない浪川はもういない。寂しい浪川はもういない。……私こそが真に出来ない子だった。もしも、時間を戻せたならば、もっと違う言葉を、行動を出来たのかな……。もう何もかもが手遅れで目の前が真っ白に染まって行く。ああ、どうして。

Title 彗星

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