空で会おうよ、今度は



(夢主は死ぬ/R15推程度の発言あり)


人間とは愚かしい。ずっとそう思っていた。因みにこれは今も思っている。ただ、愚かしいという事以外にも私は知っている。私の名前はセイン。当時少女だった名前とのお話は、百年も前に遡る。もうその女はもう居ない。楽園に等しい、ヘブンズガーデンに一陣の風が吹いた。思い出す、最初に逢った時は、私は負傷していた。それは魔界の民の襲撃によるもので、深い傷跡を残しており、羽はもげそうな位痛みが迸っていた。だが、昼間だと言うのに人通りの少ない場所でやられた為、人の助けは求められそうにも無かった。まぁ、元々人と言う存在を信じて等居なかったから、私は此処で果てるのか、仲間はどうなる。とか色々な惰弱に成っていた。だが、信じられない事にその人通りの少ない所に少女が通りかかったのだ。少女は憔悴している、私を見て焦ったように肩を貸して、自分の家まで連れ帰った。



何をされるのだろう?と思った。天使に近しい存在であるからして無理難題を押し付けられても不思議ではなかったのだ。なので私は鋭い切っ先のような瞳を向けて、睥睨したのを覚えている。「汝、何が望みだ?残念だが、このありさま、天界には帰られそうにも無いのだ」そういうと少女はキョトンとしたようにくりくりした大きな瞳を瞬かせたのだった。「いえ、瀕死の方が、居たので助けたまでですよ」信じられなかった。だが、事実なのだろう。少女は、私に手当を施した。包帯でグルグル巻きにされてしまった当たり、慣れていないのが窺えた。もうちょっとマシには成らないのか、と抗議したけど、ごめんなさい。と返ってきたので、仕方ないと少女のベッドに寝かされたのでそのまま横たわったまま治癒に専念した。「私の名前は名前と言います、天使様。名を何と」「セインだ。名前か、世話に成るぞ」



名前と名乗った少女は一人で此処で暮らしているようだった。何故か、動物にもよく好かれており、黒猫とよくじゃれていた。今にして考えればだが、これが良くなかったのだ。此処で止めておけば、若しかしたら、名前は死なずに済んだかもしれないと思うのだ。「なーん」「ふふふ、動物はいいね。可愛くて、汚してこなくて」その意味をわからずに、首を傾げた。名前は夜は居ない、昼間に戻ってくる。だから、あの日もたまたま私は救われたのだろうと考えていた。少なくともあの場で一日以上血を流していたら死に至っていただろう。いつも、名前は出ていくとき幼いながらに化粧を施し、香を使っていた。何故止めなかったのだろうと未だに悔やまれる。



「天使様、私の様な汚れた存在でも、天国に行けますでしょうか?」汚れた存在?と言う部分に疑問を覚えながら尋ねた。そこで驚愕の事実を知った。「私は春を売っております、この身は汚れております」何故、そんなことをしているんだ。と強い口調で詰問すれば「私は親に売られたのです」と答えた。幼い身に汚れた男が欲望を吐き出している。それだけで吐き気がした。怪我の具合はまぁまぁ、良くなってきたが、まだまだ時間がかかりそうだ。特に羽には気を使っているが、切込みが深くてなかなか治癒に至らない。そんな時だった、この街も遂に魔女狩りというものが始まった。と小刻みに震える、名前が泣きそうな顔で、言った。「何だと……、」大抵は冤罪が多かったそれ。私は、治りかけてきた、羽を羽ばたかせて、飛べるか確認しながら、抱きしめた。



若しかしたら恋をしていたかもしれない。ある昼下がりどんどんと戸を割れんばかりに、叩く音で目を醒ました。名前が「どちら様ですか?」と開けた瞬間胸倉を掴まれた。「魔女め」ああ、黒猫等とじゃれていた、名前が選ばれたのだと、瞬時に悟った。「待て!そいつは魔女なんかじゃない!私を」「何と!天使様を軟禁していたのか!お前の罪は重たいぞ」「話を聞け!!」喉が嗄れる程に叫んだが、届かなかった。名前は連行されていって、天使様の私は、丁重にもてなされたが、違う!と言っても聞き入れてもらえなかった。「どうぞ、悪魔の使いが死ぬ姿をご覧になっていてくださいませ、天使様」「セイン様!セイン様っ!!嫌だ、死にたくないっ!!」張り付けにされた、名前の足元に火がくべられた。



「やめろおおお!!」「まぁまぁ、天使様」大の大人に動きを封じられる。力が戻っていたならば、振りほどけた腕が振りほどけなかった。私は焼けていき、悲鳴をあげる名前を叫びながら見る事しか出来なかった。ようやく不意を突き渾身の力で振りほどき、走り寄った。だが、人の肉の焦げる匂いと死の匂いばかりがして、名前は虫の息だった。「セイン様、」私は何とか、名前の拘束を外して、羽ばたいた。大人たちは困惑気味だった。「天使様?!」「ふざけるな、この女は悪魔にやられて、倒れていた私を助けてくれたのだ。お前たちは地獄に落ちるだろう!」そう言い残してヘブンズガーデンまで羽ばたかせた。まだ完全に癒えていない羽を羽ばたかせて、瀕死の名前が泣きながら有難うございます有難うございますというのを聞いた。



途中何度も羽ばたいた羽が痛んで、落ちそうに成ったかわからないがついた。ヘブンズガーデン。「名前ついたぞ。此処がヘブンズ……名前?」返事が返ってこなかった。脈を確認したとき、脈が無い事に気が付いた。どんどんと冷えて硬直していく、名前を抱きしめた。焼けただれた皮膚に、痛みに歪んだ顔。どれだけ、苦しかっただろう?「起きろ……此処がこれから私たちが暮らすヘブンズガーデンだぞ……」ゆさゆさ、揺さ振る。だけど、私は本当は知っていたんだ。もう、名前は起きないって。助け出した時点で虫の息だったってこと。私は悔しさと恋しさで、耐えきれず涙を零した。それが、名前の顔にかかって、光を照り返した。蘇生も行ったが無意味だった。



ヘブンズガーデンに一つだけ墓がある。それは、名前の墓だ。私は花束を置き笑んだ。「どうだ?楽園の居心地は。人間界などと比べ物に成らないだろう?」独り言のようにポツリと呟いた。返事をするように、一陣の風が私の後ろに一つに編んでいる栗色の髪の毛を巻き上げた。


Title 彗星

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