羨望と春



(性同一障害の夢主/夢主←霧野/なので自分で俺と言っています注意)


昔から自分の性別が分からない所があった。自分は幼い時のおままごとに、男役を演じたり、自ら望んで劇で男の役を演じた。そして、男の子の着るような服を着たり男言葉で話したり、あやふやで水彩絵の具を水でより薄めたような色を塗りたくったようなそんな存在だった。そんな中で出会ったのが霧野だった。最初見た時髪の毛を縛っていて桃色の髪の毛が印象的で、女の子だと思った。だから、恋をした。霧野は同じ男の子で泣き虫の神童財閥の神童君とお友達だった。付き合っているのかな?って思ったけれど実際は違って、俺もその輪の中に入った時に成って、話して初めて霧野が男の子だと知ったのだった。俺は酷く困惑して、同時に、異物を受け入れてしまったような感覚に陥った。



中学に上がる頃、このご時世、学生服は選べて男子生徒の服も着られた。だけど、男子だけの部活などには入ることが出来なくて霧野の入っているサッカー部が羨ましかった。昔は一緒に成って泥まみれに成りながらも、サッカーをしていたのに。その背は酷く遠く感じられた。俺は、この頃に水鳥という女の子に恋をしていた。乱暴な口調な女の子だけど、きっと、その長髪を弄って、綺麗に着飾れば可愛いと思うのだ。はっきり言って、俺は同性愛者等とかそんな単純な物ではなかった。俺は性同一性障害だったのだった。それは高校に上がる頃に発覚したことだった。



膨らむ胸が悔しかった。押しつぶしても存在するそれ。声変わりのしない声。いつも低めに話して居るけれど地声は女の子のそれで。悔しかった。霧野は順当に、声変わりが始まって、声がガラガラと低く成って行った。同時に神童もそうだった。どうして、俺だけ置いて行かれるのだろう。と思った。水鳥には告白はしていない。俺は綺麗に切りそろえた、短髪を撫で付けて、溜息を吐いた。俺という存在は何処までも希薄で、虚ろげな物だった。どうしても、男に成りたかったがお金が無かった。



大学生。働き始めるが、手術するだけのお金は溜まらない。いつも飲みに行ったりするからだ。霧野と神童は離れ離れの大学に入ったが霧野とは同じ大学に入った。霧野は相変わらず女みたいにだらだらと髪の毛を伸ばしている。そんな中、同じサークルに入っている霧野と飲みに行くことに成った。さしでだ。神童も呼ぶのかと思ったが、神童は忙しいのか、財閥の坊ちゃんがこんな居酒屋に来てはいけないのかわからないが、神童は来ないとの事だった。ビールで一杯目の乾杯を。苦い物があまり好きではない俺はビールは一杯だけで、終わりと決めているので女らしくて嫌だがカルーアを頼んだ。



つまみの料理を食べながらもう酔い始めてきている、自分はどう足掻いても女なんだな、って思い知らされていた。霧野はそんな私を置いて、ぐいぐい飲んでいるが、酔っぱらう兆しが見えない。「うぅ、きりのぉ……、よっぱらってきたかも」「そうか、いいぞ。送って行ってやるから」そう言って俺が完全に酔っぱらったのを確認した後に勘定を済ませた。霧野の肩に掴まりながらネオンや自動車の光が眩しい夜道を歩いた。夏のそれは、蒸していてコンクリートからはもう熱は発せられていないが、暑いと思った。霧野の匂いと存在を近くに感じて、水鳥を思い出していた。そういえば、彼女はどうしたんだろう?霧野と居るとその桃色に水鳥をたまに思い出す。今はサークルの一つ下の女の子が気に成るのだが、怖くて何も言えないでいた。



目的地、要するに俺の住んでいる家なのだが、そこに付くと霧野が鍵、と言ったので、グルグル回る視界で鞄から、鍵を取り出して霧野に託した。霧野が鍵をさして、回しドアノブを握った。家の中に入ると酷く安心した。ふらふらとソファーに倒れ込むと霧野が覆いかぶさってきた。「?……霧野どういうつもりだ」「名前が好きだ。昔から好きだった。同じサークルに入ったのだって、お前を追うためだった、もう幼馴染なんかじゃ我慢出来ない」そう言った霧野の顔は酷く男の顔をしていて私は酷く嫌悪感を覚えた。弱々しく抵抗する。手で胸を押した。「……やめろ、おとこにきょうみはない」「知っている」



知っているなら何故?と見上げれば霧野は結んでいた、髪の毛を解いた。まるで、昔恋をしていた水鳥みたいだった。「あ、」「ほら、俺って女みたいだろう?」「でも、お前は男だ」どう足掻いてもお前の性別は変えられない。「ちゃんと見ろよ、お前好みに、髪の毛だって伸ばしたんだ」「おれは……女にしか、きょうみない」「見た目が女なら大丈夫だろう?」「むりだ」男だと思うだけで、感じるだけで受け付けられない。そういうと霧野が残念そうな顔をしながらも私を拘束した。「じゃぁ、男の良さ、教えてやるから。それで、俺を好きに成ってくれよ」「いやだ!!やめろ!!ふざけるな!!」手足をばたつかせて本気で嫌だと思って蹴ったりもしたのにびくともしない。今だに現役でサッカーをしているからだろうか。足は固く、何処も骨ばっていて、男のそれだった。見た目が女?確かに霧野はだらだら伸ばしている髪の毛をいつも縛っていて、男にナンパされるくらいには女らしい。だけど、本当は、違うんだ。「好きだ」の言葉が遠のいていく。男に抱かれるなんて冗談じゃない!



「おれが、どんなそんざいかしっていてそんなことをするつもりか?!」「そうだ。せめて、髪の毛だけでも。と思っていたが、その俺すらも、拒絶するならもう意味は無いな」そう言って、明日にでも切るか。とニッコリ笑った。「さぁ、観念しろ。お前は女なんだよ。どんなに、足掻いても、な。名前が女を好きだろうと知ったことじゃあない、俺を好きに成ってくれないなら意味が無い」「きりの!!」俺の声は届かないようだ。手足が疲れてきた微睡む。俺は所詮、男には成れない女だった。


Title 約30の嘘

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