ヴィクトリアは嘘がすべて



鬼道君程、完璧と呼ぶに相応しい人間は居ないだろうと思う。本気で思っている。確か帝王学だっけそんなものも習っていて、とても頭が良くてしかも料理なんかも見よう見まねで作った料理が美味しかったらしく、佐久間君と源田君たちが顔を綻ばせて言っていた。私には雲の上の人間としか思えないし、手に届く人間でもないな。って思った。この帝国学園に通って鬼道君を眺めているだけで時間が過ぎていくだけで十分だと思っていた。が、脆い均衡だったのかもしれない。私は何故か鬼道君に呼ばれていて、言わば告白なるものを受けている。何故かわからないので、尋ねたら。わからないのか、努力家で、少し引っ込み思案で、少し不器用なお前が好きなんだ。と言われた。



私はわからなかった。なんで、鬼道君が私の事等見ていたのだろう?って更に疑問に思った。その事を伝えてみたら、俺は同じクラスの人間は平等に見ているし顔も名前も憶えている。と言った。その中で気に成った女子がお前だ。と言った。天地がひっくり返ってもあり得ないと思っていたのに。私は首を縦にも横にも振ることが出来なかった。絶対女子から嫌がらせを受けるに決まっている。明日から私の人生は、狂った歯車。鬼道君は返事を悠長に待っていてくれているが、私は答えは出せないと言ったらそうか、と言った。怖かったのだ。秤に乗せて釣り合わない二人が、どうなるのかなんて神様はお見通しだきっと。



青春の一ページに一つ、染みを作る。鬼道君がこの間の一件からアプローチして来るように成った。練習試合を見に来ないか?とか、今日はお弁当を作ってきたのだが、お前の口に合うといいんだが。と言って彼女かよ、って思うような行動をとってくるので女子からいよいよ、ねちねちした嫌がらせを受けるようになった。「鬼道君と貴女って釣り合っていないわよ」「はぁ」「何その態度」「いえ、付き合っていませんから」とだけ言ってその場から脱兎のごとく逃げた。平穏こそが私の唯一の安らぎだったのに。それすらも夏の陽炎の様に揺らぎ始めた。



鬼道君って思うに自分に自信があるんだと思う。まだ、折れてくれない。鬼道君を敵に回すのも嫌だけど付き合うのも考えられないっていうのが正直な意見なのだが。「名前」いつの間にか彼氏面で、私の舌の名前を呼ぶように成っていた。鬼道君を好きな子は沢山いるのに何で私なんだろう。何の取り柄も無い、私なんだろう。成績表を見て溜息を吐くまた中間からちょっといいくらいの位置に居て、鬼道君は勿論トップを維持していた。「ふむ、そうだ。俺が勉強を教えてやろう」鬼道君の提案は有難かった。その日のサッカーの練習が終わった後、付きっきりで教えてくれた。苦手な英語の単語の覚え方、数式。まるで魔法の様だった。「有難う、鬼道君。何も返してあげられないけど」



「いいんだ、俺にとっては名前と過ごせる時間が報酬だからな」臭い台詞もゴーグルマントさんはびしっと決めてくる。怖い。そして、そんな砂糖菓子のような甘い言葉にキュンと来ている自分に嫌に成ってくる。もう認めるしかないじゃないか。「私も鬼道君と居るのが好きみたい」ってね。その日から学校中の噂に成って私は肩身の狭い思いをしたが嫌がらせが全くないのが不思議に思っていたら鬼道君が先に手を打っていてくれたようだ。なんていう素晴らしいというか、先を考えられる男なのだろうと益々感心してしまった。



鬼道君の家はでかかった。いや、通りがかったことは数度あるんだけども、こうして、中に入ることは一度も無かったので改めてその広さに驚いた。ベッドに腰掛けてみるとこれまたふかふかで幸せな温かさがあって、このまま眠りにつきたいとか思ってしまった。「鬼道君、ベッドがふかふかで無茶苦茶寝てみたい」「寝てもいいが、何をされても文句は言うなよ」おー、こわ。ベッドに寝そべってみると鬼道君の匂いがした。「何をされても文句はないっていうことだな?」そう言って額に口づけられた。隣に鬼道君が寝そべって私をきつく抱きしめた。愛おしげに首筋に顔を埋めて「いい香りだ」と呟いた。



あれから時が流れた。鬼道君との同棲は鬼道君の両親が若干反対していたようだが鬼道君がなんとか説得してくれて今では鬼道君の家で一緒に暮らしている。なんでも、今は、サッカーの監督をしているとか。料理は鬼道君の方がうまいからせめて、お掃除だけでもと思ってもメイドさんたちが片付けて本当やることがない。何か力に成れることがあればいいんだけどなぁ、と思ってそれを呟いてみたら鬼道君がゴーグル越しに赤い瞳をぱちくりと瞬かせた。「名前はいてくれるだけで俺の疲れは取れるし、何より」夜はたっぷり、楽しませてもらっているからなと言われて赤面してしまった。頬が熟れた果実の様に赤い。きっと、からかっているんだと思った。けど、鬼道君はポーカーフェイスか、真顔で。「キスをしてもいいか?」とゴーグルを取って兎の様な赤い瞳で見つめた。私の了承なんて取る気なんて最初からない癖に。鬼道君はずるい人だ。

Title 彗星

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