あの娘の睫毛は砂糖漬け



私は狩屋君が大嫌いだ。いつも私の物を隠したりして来る。今日は鞄をゴミ捨て場の近くに置かれていたのだ。私は埃を払って、教室に戻る。腹が立つことに狩屋君は私の後ろの席なのだ。なので、授業中も私の背中に目掛けて消しゴムのカスだとか投げつけてくる。こんな男を好きに成れって言う方が無理がある話である。昼食時、友達に相談して席を交換して貰おうとしたら、今度は席を離れているすきに私が購買で買ってきておいた、苺牛乳とおにぎりの内の苺牛乳が勝手に飲まれていた。「あま……」「そりゃあ、苺牛乳ですから。あと金返せ」それは私の少ない……いや、中学生にしては妥当な金額のお小遣いかもしれないのだが、制限のある中のお金で買った苺牛乳が飲まれていたら最悪だと誰もが思うだろう。



いや、女友達と飲みまわすとかならば全然構わないのだが、嫌いな相手ならどうだろう。百人中百人が、嫌だと答えるだろう。そして、苺牛乳代を請求するだろう。狩屋君は嫌な笑み浮かべていて、目が猫みたいに鋭く成っていた。「まだ、ちょっとしか飲んでいないから飲めばいいじゃん?」「嫌だよ」狩屋君傷付いちゃうかもしれないから言っていないけれど嫌いだから、って心の中で付け加えてみると狩屋君がもっと笑みを深めた。「若しかして、間接キスとかそういうの意識しちゃっているわけ?」狩屋君ハッキリ言って性格悪い。間接キスを意識したのではなく、……いや、意識したのか?同じものに口を付けたくないと思ったのだからそうなのだろう。



「そうだよ!狩屋君と間接キスなんて嫌だもの」「ふーん。あっそ。でもお金ないし、お金返せないから。あとこれ、甘すぎてもう飲みたくないし。捨てる?」捨てる?という単語に私は敏感に反応した。捨てる……だと。それを捨てるのは百二十円をどぶに捨てるのと同じだ。たかが百二十円、されども百二十円。一円を笑うものは一円に泣くのだ。そういう言葉があるくらいなのだ。捨てるなんてとんでもない。「狩屋君が責任もって、全部飲んでください」「いやだ」そういって私に押し付けてくる。押し付けた後は占拠していた私の席から退いてくれた。友達がニヤニヤこっちを見ていた。



「ねぇ、狩屋君ってさ、私たちには優しいけれど名前にだけああいう態度だよね。いつも物隠されたり、勝手にシャーペン使われたりとか」友達の真意をくみ取れずに、首を傾げて「そうだけど。嫌がらせ受けていますけど。何か」と苛立ってちょっと悪意のある言い方をしてしまった。友達はそんなの気にしていないと言ったふうで、自分の思惟を教えてくれた。だが、その内容には憮然としてしまった。「はぁ?狩屋君が私の事を好き?それが本当なら気持ち悪いんだけど、歪み過ぎでしょ愛情」「だって〜、よく言うじゃない。好きな子にはちょっかいをかけたり、意地悪したくなるって」はぁ、と深い深いため息を吐いて、飲みかけの苺牛乳を持て余していた。



掃除の時間。狩屋君と同じ班なので、教室の掃除も同じだった。あとはゴミ捨てだけだったので私と狩屋君だけが残ってゴミ捨て場まで行った。燃えるごみを焼却炉にぶち込む。今日一日、友達との会話が耳の中で残響していて気に成っていた。思い切って聞いてみようか。いや、でも自意識過剰だとかいい遊び道具だとか、ストレス発散だとか言われたら私いよいよ、再起不能に成るんだけど。「お……い……おい!」狩屋君の声で意識が覚醒した。「何ボーっとしちゃっているわけ?もう帰りたいんだけど」そう言っている狩屋君に無意識のうちに唇の僅かな隙間から言葉が漏れて行った。「狩屋君ってもしかして私が好きなの?」



西日のせいか、それにしても真っ赤に頬や耳が鮮やかに染まった狩屋君が「ばっかじゃねーの!なんで今更気付くわけ?!」「いや、友達と今日話していて、その話題が出て……、今まで気付かなかったけどその反応は肯定と捉えるよ?」「あー!もう言葉にしなきゃわからないわけ?!どんだけ鈍いわけ?!」「言っておくけど私の狩屋君の好感度はマイナスです。今日の苺牛乳も捨てたしね結局」そういうと興奮気味の狩屋君がマジかよ……と小さな声で呟いた。「じゃあ、どうしたら好感度あがるわけ?」「え、普通に仲良くしてくれたら」「それって友達としてだろう。異性としてみろよ!」トンと肩を押されて、塀に押しやられた。そして、そのまま唇を奪い去られた。「少しは意識しろよな!好きだ、ばーか!」そう言って逃げて行った。ドキドキするのはきっとキスを突然されたからだ、そうに決まっている。だって、私は狩屋君が嫌いなのだから。


Title 約30の嘘

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