希薄なアンドロイド



私という存在程希薄なものは無い。私とはそもそも、誰かの代わりに作られただけであって、そう……例えば幼い頃に失った恋人。「レイ君」目の前の大人の女性、マスターである名前は私の事をこう呼ぶ。私の本当の名前は途轍もなく長くて、皆からは短縮された名前、「レイ・ルク」と呼ばれている。サカマキ様も私のマスターだが作ったのは彼女に違いなかった。それも特別時間をかけて作ったらしい。一度、セカンドステージチルドレンとの試合で故障してしまい、それを直したのも彼女だった。「調子はどう?あれから、かわりは無い?」「イエス。マスター。変りはありません、特にエラーも出ていません」



セカンドステージチルドレンがワクチンを打った後、我々の多くは不要と成った。そんな中、名前は私を引き取った。それから感情も心臓も持たぬ私に呼びかけて、嬉しそうに笑う。何故、私が幼い頃の恋人の代わりだと知っているのか、それは偶然だった。マスターの名前の言いつけで資料室に行ったときにグラついている、箱が頭上に落下してきて、それを受け止めた時に落ちた古いホログラムが勝手に映し出したのだ。私そっくりの男の子が居て、それと焦がれたような瞳で見つめながらも嬉しそうに笑う、名前の姿。暫く見とれてしまった。子供の頃から全然変わらない笑顔に、見惚れていたのだ。



それからというもの、その光景は私に枷の様に、或いは重たい鉄の塊の様にのしかかってきた。私は、名前にとって、そいつの代わりでしかない。だから、私を引き取ったのだ、だから、私が破損したときに泣きそうな顔を見せたのだ。何もかも理解不能なのに心臓の部分がショートしてしまいそうな程に熱く、熱を帯びていたのに気が付いた。私は何も知らないままがよかった。名前が今日も白衣を身に纏いながらレイ君レイ君と嬉しそうに名前を呼ぶ。無意味に呼ぶ。本当は別の男の名前を呼んでいたかもしれないと思うと、なんだか……、なんだか?



「レイ君?」「資料室、ホログラム……あれは、幼い頃のマスターですか?」ホログラムと聞いた瞬間、強張った顔をしてまさか、見たの?と問うてきたので「事故です」と答えた。「レイ君そっくりで驚いた?今時、あんな坊主頭で運動が大好きだったの。そして、私は彼を」エラー、エラー、エラー。目の前が赤い。赤い、赤い、赤い。その先の言葉は何もわからなかった、検索結果を見ても要領を得なくて頭を抱えたくなってしまった。感情、その他、不可視な物ほど検索結果を理解できない。マスターが慌てているのが視界の片隅で映った。それは私を助ける為?それとも、あの男の子の為?



レイ君、レイ君。ごめんね、ごめんね。確かに最初作った時は、あの人の事を考えて作ったの。あの人はセカンドステージチルドレンの襲撃で命を落としていたから、レイ君は私にとって、スーパーヒーローみたいな存在だったの。そして、同時に仇を討ってくれた存在でもあるの。だから、レイ君は私にとってヒーローなの。ねぇ、レイ君。お人形遊びだとか笑われちゃうけれどね。私はレイ君が好きよ。きっと、何度壊れても何度でも作り直す。きっと、よ。そうエラー塗れの中聞こえてきた鳥の囀るような天使の声。ああ、私は。そうか、心を持たないアンドロイドだけれども。確かに芽生えたもの、私は信じて見たくなった。きっと、プログラムされていない事だけれども、私は名前に恋をしてしまったのだと。

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