はい、あーん



年すらも喪失した私の恋人は人間ではないらしい、私が十三の誕生日を迎えたときに羨ましげに言ったのだ。「人間は誕生日を祝えていいな」「そんなに羨ましいなら誕生日くらい祝ってあげるよ」思えば一度もベリアルの誕生日を祝ったことが無いなと思いながらもそんなに望むのなら盛大に魔界の民と一緒になって祝ってあげると言うと難しそうな顔をした。「それがよぉ……誕生日もわからねーし、年も忘れたんだ。他の奴らはしらねぇけど、俺はもう覚えちゃいねーよ」果たして自分が何歳なのか、そして、いつ生まれたのかそれすらも遠い過去の出来事で最後に祝ってもらったのも果てしなく遠い在りし日の思いでとなっているようだった。それは水泡のように弾けて消える。「じゃあ、今からお祝いしようよ。私と同じ誕生日なら忘れないでしょ」「成る程、良い案だな」



ベリアルが珍しく無表情の顔を崩して笑った。笑うと美人な顔が余計に映えて、これは普通だと悪い虫がついてしまうなと思ったけれど、笑うこと自体が珍しかったので指摘はしなかった。すらりと長い足を組み、木製の椅子に腰かける。祝ってもらう気満々のようで今日は機嫌よさそうだった。目の前に、私の誕生日で用意していた切り分けられた苺の乗っかった少し大きめのショートケーキを置いた。元来甘いものは、あまり好きな様子ではなかったけれど今日が特別な日に変わったことからか、調子よさ気にフォークで突き刺してショートケーキを崩した。それから、一口大にフォークで切って口に運んだ。「うめぇ!甘いもの好きじゃねぇけどこれはうめぇ」「自分で作ったからね」「市販かと思っていた」「だって、ベリアルも食べるから」そういって自分の席について私もケーキを口に運んだ。甘ったるいにおいが鼻腔を掠めて、口内を満たした。今日の出来は最高だ。



「はぁ、うまかったぁ」もう食べ終わったのか満足げにお腹をさすっているベリアルが早々と立ち上がった。「誕生日と言えば後は、プレゼントだよな」「用意していないよ。こんなことになるなんて想定外だったから。買いに行く?」そう、尋ねるとベリアルは「いや」と否定してじっと私を見据えた。「目の前にあるじゃねぇか」目の前、というとケーキを未だに貪っている私しかいない。私はクスクス苦笑いをしてもらった自分のプレゼントからリボンを引っ張って自分にかけて手際よく超蝶結びにしてみせた。「どうぞ」自分でやるのは少々気恥ずかしい事だったが、ベリアルはそれを望んでいるのは明白な事だった。実際にそれをやると「いただきます、お嬢さん」とガブリと唇を荒々しく噛んで猫の瞳のように、細めた。人間らしい、欲情した表情だった。



「今日は良い誕生日に成りそうだなぁ」「今日だけじゃなくて来年もいい誕生日になるよ、きっと」これからは、毎年ダブルで誕生日を祝うのだから。



Title デコヤ

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