僕らのスタートライン



ついこの間までは普通の友人だと思っていたのに、急に避けられるようになった。最初?最初は勿論、気のせいだと思っていたのだけれど。どうもこれはただの気のせいではないらしい。俺が話しかけようとした瞬間「ご、ごめん、友達に用あるの忘れていた」とかもっともらしい適当な理由をつけられて、逃げられる。俺はというと、心が擦り切れて泣きそう。というか、家で泣いた。辛すぎる。俺……嫌われたんだ。きっと、そうだ。だけど、嫌われるような要因が思い当たらないので、直しようも無く、俺はただただ黄昏た様に溜息をついて本当は今すぐに泣きたい気持ちを抑えて、敢えて眉間に皺を寄せ険しい顔立ちを作り上げていた。



「名前……あの、はなし「あ……喜多君ごめん。友達に、辞典返してくるね」声をさえぎった美しいソプラノに俺の目には涙が滲んだ。重たそうな辞典を片手に別の教室に逃げていった。星降が俺と名前のやりとりを見ていたらしく、音もなく近寄ってきた。奴の行動は中々に掴めない事が多いので今回もやはり驚かされてしまった。「……名前に何かしたの?最近、避けられているみたい」……やっぱり、星降から見ても俺は避けられているんだ……。星降はこんなだけど、言いたいことがある時は大抵正しい事を言う。だから、星降に言われたんじゃ、きっと事実なんだろう。「……俺、何かしただろうか」「何もしていないのに、あんなに露骨に避けられると思う?よっぽど喜多が嫌いか……若しくは」よっぽど喜多が嫌い……嫌い、嫌い。そこだけが異常に反響して頭ががんがんしていた。頭痛がする頭を手で擦ると、星降は心配そうに俺を見ていた。「ぅぅ……俺、どうしたら……いいんだ。嫌われて……っ。うぅ。どうしよう……」



仲直りできるものなら仲直りしたい。だけど、仲直りしたい謝りたいのに、逃げられてしまう。どうしたら、元の関係に戻れるのだろうか、星降に泣き付くように尋ねれば、星降はいつも無表情気味なのにその時ばかりは口角を持ち上げて言った。「俺には名前が喜多を嫌っているようには見えないんだけど」なんて言ってきた。そんなわけないじゃないか、こんなに露骨なまでに避けられているというのに、接触を拒まれているのに、嫌われていないだなんて。「いつになれば、これは直るんだ?」という率直な質問にははぐらかされるように、笑われてしまった。だが、星降は俺のしょげた様子を見て思い直したように噤んでいた口を開いた。



「そうだな、名前に勇気が沸いたらか、若しくは喜多も同じ気持ちだろうから、いっそ、捕まえて強引に告白しちゃうとか」「……俺の気持ち?」考えたことも無かった、そういえば、なんで、俺は避けられてこんなにしょげているんだろう。矢張り、今までこんな態度を誰かに取られたことが無かったからだと思うのだけれどと星降に告げてみれば星降は成る程、喜多はこの方面に弱かったなと苦笑されてしまった。「自分の胸に手を当ててよく、考えてみて。どうして、泣きたくなるまで、傷つく?それは、名前が好きだからだ。自覚そろそろしたら?」多分、うまく行くからさ、と背中を軽くトン、と押された。



「逃げないでくれ!名前!」此処から始まるスタートライン。

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