割引きしますか?



人ごみの中行き成り、俺の肩を掴む不届き物が現れた。周りの人たちは俺たちを避けて歩き出す。助けを求めているわけではないけれど、世の中冷たいと思う。「へーい、彼女〜、可愛いねぇ。俺とイイコトしない〜?」……今どきこんなナンパ方法あるのかってくらい使い古されたテンプレートの言葉、怒りに震える俺の肩。肩を掴まれた手を強く、握り締めて振り返るキッと鋭くにらみつける。だが、振り返ってこちらがびっくりしてしまった。てっきり俺の容姿、つまりは後姿だけを見て女と間違えた頭の悪そうなガラの悪い男だと思っていたものだから。よくよく掴んだ手を見れば華奢で色白く細い女の物だとすぐに判断が出来た。頭に血が上っていたせいで、気が付かなかった。ムッとした表情のまま、彼女に文句を言う。「名前じゃないか。冗談にしても質が悪い」「まぁまぁ、怒らないで〜?可愛い顔が台無しよー」



ケラケラと全然申し訳ないとか思っていないのだろう。制服ではなく、私服を身に纏った名前が強く掴まれていた手を離した。意外と強く掴んでしまっていたことには謝った。跡になったら流石に俺も酷いことしたな、って思うし。「いやいや、ごめんね?偶然可愛い子がいたから話しかけたんだけど。そしたら蘭丸でさぁ」「俺だって最初から分かっていたくせに」凄くわざとらしい演技がかった口調だ。そもそも、名前と俺は知り合いというか、同じクラスメイトでそこそこ仲がいいからわからなかったなんて言い訳が俺に通用するわけも無い。仮にほんきでわからなかったとして、その辺の女をナンパしようとするな。名前の神経を疑うぞ。「でもさー、普通二つ結びのピンクい子が居たら女の子だって思うでしょ?」「思わないね」「そうかな。まあ、いいや。で、イイコトの件だけど。そこの喫茶で今期間限定のスイーツがあるんだけど」色気より食い気か。と呆れながらそのまま、言葉の続きを待つことにする。きっと、俺が行くことでメリットがあるのだろう。でなければ、イイコトがあるなんて俺を誘い出す必要性も無いわけで。「女の子同士で行くと、割引なんだよねー。蘭丸、お願い。いいでしょ?蘭丸にとってもメリットあると思うし!」「……」絶句である。俺に女のふりをしろと暗に言っているのだ。こんなことを普通クラスの仲のいい男子に頼むだろうか?あり得ない、あってたまるものか。(此処にあるのだけど、見えないふりをしたい)



そんな懇願するような瞳で見たって嫌なものは嫌だ。きっぱりと嫌だ、と跳ね除けると名前がお願い。と瞳を潤ませた。なんで俺が女の振りなんてしなきゃいけないの。「俺が女で通るわけないだろ!」「大丈夫!ばれないよ!」自信満々にばれないばれないと連呼する名前。俺の気持ちわかるか?嬉しくないし、むしろ傷ついているんだけど。女顔なの気にしているの知っているくせに。「カップル割引とかいうならまだ、わかるけど?」彼氏、という単語を聞いて名前が僅かに反応を示した。「カップル割引か、それもあるよ。でも、蘭丸だし……女の子同士のほうがすんなり通るかなって思って」「失礼なこと言わないでくれ!」「誰も蘭丸が男だとは思わないって。安心してよ」安心できるわけがないだろう!俺は男だ!ちゃんとついている。「よし、そこまで言うならついて行ってやる」「おぉ、貴方が女神か……!」大げさなくらいに喜んで、じゃあ、こっちだからついてきてと俺の手を引いた。……俺はその女の子同士で行けば割引なんていうのにはサラサラ、協力する気がない。名前め、こっちから仕掛けてやる。今に見ていろ。



目的地に到着。名前には事前に何も喋るなと言い聞かされていたが俺はその言いつけを守る気がない。名前は俺が黙っているのを見て、恐らく了承したと信じている。その証拠に名前は俺の動きに全く警戒していない。席につくとすぐさまに小ぶりの氷が入った水とメニューがやってきた。俺は適当に目を通しながら持ってきてくれたお姉さんに自然な素振りでにこやかに尋ねた。「ああ、そういえば、此処ってカップル割ってきくんですよね?」「ぶっ!」「えっ。え……、あの、失礼ですけど」お姉さんが言いたいことは言わずともわかる。俺が女に見える、本当に男なのかと言ったところだろう。俺は仕方なく、財布に入れておいた学生証を見せる。「俺、男なんですよ」「は、はあ」お姉さんは吃驚していたようだったがもっと吃驚しているのは名前の方だった。信じられないと言葉を失っていて、ただただ目を白黒させてかける言葉を探していた。「あ、あの……蘭丸」「ほら、みろ。カップルでも通用するじゃないか」こんな姑息な手段を使わずとも最初から彼氏のふりをしてほしいでいいのに。どうせ、割り引かれる料金は同じだろう。そういって俺は頭を冷やすために水を口に含んだ。

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