うぃーくぽいんと



お母さんはどうして、こういう地味な攻撃をしてくるのだろうか。直接言ってきてくれたほうがまだ、清々するんだけれど……。何で怒っているんだろうか?この間の小テストの点が残念だったから?それとも、この間高いクッキーを無断で食べたから?あれ、可笑しいな思い当たる節がありすぎるなと苗字が頭を抱えた。ああ……それにしても、この間のお高いクッキーは美味しかったなぁ……値段のことだけあってサックサクしていて、本当手が止まらなかったし。また、食べたいなぁー。でも、あれ買うと自分の財布が寒くなるとそれ以上手に入ることのないクッキーの事を考えるのをやめた。「で、なんだけど、喜多君がこの悪魔の赤い実を食べてくれれば……」喜多は何のことだ……?と苗字のお弁当の中身を見ていたが、すぐに理解した。一つだけぽつんと残っている、隅に追いやられた赤い物体。それは丸くて、苗字が弁当箱を傾けるとコロコロと弁当箱の中を転がった。



「……もしかして悪魔の赤い実というのは、このプチトマトのことか?」「流石。食べて」どうやら、喜多の勘は大当たりだったらしい。嫌いだったのか。甘やかしてやってもいいことはないだろう。と気難しそうに切れ長の瞳を歪めて何か思案に耽っているようだったがやがて突き放すように冷たく言い放った。「自分で食べろ。栄養偏るぞ」喜多がそう諭しても、苗字は首を横に数度振り、頑なに食べようとはしなかった。「……やだ。この赤い物体で取れる栄養は別のもので取るからっ!」なーんて屁理屈言い出したので喜多は少し呆れてしまった。



「大体、喜多だって嫌いな物の一つや二つあるでしょう?」「……ま、まあ。無くも無いかな……」ほらみろ。と勝ち誇ったようなドヤ顔をしている苗字に対して注釈を入れた。「でも、食べられなくはないぞ?苦手ってだけで、食べられる」そういうと苗字が目を見張って言った。「嘘だぁ」「嘘じゃない」「そんな完璧超人居てたまるか」どうやら苗字は人間には一つ二つ嫌いな物があってそれは絶対に食べられないと心の底から信じているようだった。なので喜多の言い分は信じがたいものであるようだった。人間ではないものを見るような目つきで、喜多を睥睨しながらプチトマトを転がした。



「喜多ぁ、あーんしてよ」「どうせ、プチトマトだろう?流石に俺だってわかるぞ」喜多は鈍感と周りに言われているせいかたまに、妙に鋭い事がある。一番疎いのは勿論、恋愛方面だ。この話題に成ると喜多はもはや話題にすら入れて貰えなくなる。汚れないキャプテンのままでいてほしいだとか適当な理由はモリモリつけられているけれどどれも、本当は一から説明するのが面倒くさいだとかそんな、本心が含められているので喜多は面白くなかった。「いいから、あーんしてよ!お願い!」両手をパンと一度叩いてそのままお願いお願いと、お願いされてしまえば心優しい喜多の心が、揺らいでしまうのはわけもなった。



はぁ、と小さく短い溜息を零して喜多はあーんと口を小さく開けた。そこに、器用にプチトマトを箸でつまんで苗字が喜多の口に入れた。入れられたのを確認して喜多はへたを取り除いて、自分のお弁当箱に入れた。それから、数度噛み砕いて、飲みこんだ。やや甘みのある、美味しいプチトマトだったので喜多はこれの何処が許せないんだと、理解しがたいと呟いた。

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