されど星には届かない



突然に思ったのだ。あの子の居る世界は、汚れたものではなくもっともっと慈悲に満ちていて、全宇宙にあるすべての物よりも美しい物であるべきだと。そして、その隣にいるべきは私などではないと。地球人である名前を初めて見た時に思ったことと言えばあんな、肌で生きていけるのか、ぷにぷにしているじゃあないか、あれでは天敵にやられてしまうじゃないかということ。サラサラした美しい艶やかな髪の毛が砂を交えキラキラと光っていて綺麗だと思ったことである。サンドリアスは周りから砂の惑星と呼ばれているだけあって、我々の進化は地球人のようなぷにぷにの柔肌ではない。あの子ではない他の者がトカゲや爬虫類の様だねと言っていた。どうやら聞くところ、地球人に好かれるようなものではないらしい。



愛おしさを抱いたとき、この子はサンドリアスに居るべきではないと思った。私はこの星、サンドリアス人として誇りを持っている。だが、違うのだ。これとこれとは話が違うのだ。あの子はもっと崇高なる存在で、天国のような場所で一日中、好きなことをして笑んでいてほしいのだ。この世に天国はあるのか?……サンドリアスは少なくとも天国ではない、負けたのだから……、此処は天国には成りえない。見たことのない地球に思いを馳せた。そこに名前は居ないけれど、きっと此処よりも彼女に似合う世界が見渡す限りどこまでも続いているのだ。……私と彼女を隔てる物を取り払うことはできない。私は彼女に触れる事すら許されないのだ。



せめて、地球人ならばなと思った。きっと、隣に立った時に少しでも見栄えはよく成ろう。でも、普通の男なんかでは駄目なのだ。名前はきっと汚れを知らない清らかな女性なのだ、だから、汚れを持ち込む男は一刻も早く、失せるべきだ。地球人だからといって、彼女の隣に易々と立つことのできた井吹と言う男が憎い。駄目なのだ、汚れを持ち込むような輩では駄目なのだ。だけども、異星人であり彼女と容貌の異なりすぎる私ではもっと駄目なのだ。隣に立つ権利すら、無い……。



別に異星人に成りたいと思ったことはない。私はサンドリアス人として生きることに誇りを持っている。それは捻じ曲げようのない事実である。しかし、私は名前から見て、醜いのだろうか?サンドリアスで生きてきて醜いと形容されたことはない、だけど名前の目は私を異質な物を見る目で見ていて、恐怖や驚愕が含まれていて、好意的な物ではなかったのは確かだった。その時どうして、サンドリアス人に生まれてしまったのだろうと少しだけ、ほんの少しだけ思ってしまったのだ。私は彼女から見て醜いのだろうか?



もしも、私が地球人ならば、私は名前の隣に立っても可笑しくなかっただろうか?…………もしも、名前も私を好いてくれていたら、許されただろうか、このごつごつとした無骨で、鱗が生えているような手が彼女の手を握ることを。星を違えても愛していることを許して貰えただろうか、自分一人がこの感情を抱くこと、これだけは許してもらえるだろうか。名前は今頃何処へ行っているのだろう。



彼女の為に楽園を作りたいのだ。名前が笑って過ごせる綺麗な綺麗な、世界を。この世界の汚れに染まらない様に。永遠に。サンドリアスの吹き荒れる砂嵐が、まるで嘆いているように聞こえる。ああ、この星はもうじきに滅びるのか。この体も、朽ちて……次等と言うものが、もしもあるのならば、……名前の隣に立つ権利を与えてほしい。砂が舞い上がる。あの日の憧憬と重なる。「きれい、だった」この世で見たもので一番美しい物はと問われれば、あの日の光景を言うだろう。綺麗だった、美しかった。だけど、触れてはならないと思った。私もまた、汚れを運ぶものなのだ。



サンドリアス、砂の惑星。何処を見ても砂ばかり。たまに風に舞いあがって砂がキラキラ太陽に反射して光って綺麗だった。こんな幻想的な光景を地球では見られない、そもそも、この砂自体が地球の物とは違うだろう。目に吹き付けたり、髪はぱさぱさに成るけれども、美しい星だった。最初この星の人々を見た時は酷く驚いた。……だって、爬虫類が進化したみたいな、そんな感じなのだもの。驚くな、というほうが無理だ。だけども、こう火星に居るであろうと推測されていたくねくねぐにゃぐにゃしたタコのような生き物とか、スライムみたいなのよりはよっぽど怖くはない。……怖くはないって言いきっちゃうと嘘に成ってしまうけれど。



カゼルマって人がよく私を見ている。何故、私を見ているのだろうと思って聞いてみた。「君たちの肌が柔らかそうで、怪我をした時、天敵に襲われた時が大変そうだなと思っていた」って至極まっとうな意見を貰った。確かに私たち人間の肌って柔らかい。簡単に鋭利な物が突き刺さって、ぱっくり傷口が開いちゃったりするもの。その点サンドリアス人は、あまり怪我をしなさそうでいいなぁ。知恵や武器を手に入れた分私たちは弱くなって言ったのかもしれないね。



吹き荒れる景色、本当に宇宙は救えるんだろうか?天馬は救えるかもしれないなんて言っているのだけど、もしも、本当に救えるのならば、カゼルマ達のあの、美しい星を生かしてほしい。ざらざら、ざらざら、流れていく砂を追いかけて、何処までも行く。その先にカゼルマは、居るのかな……。ああ、何故だろう、急にあの星と彼が恋しくなるのは。可笑しな話だ、彼はサンドリアスでは恵まれた容姿だと言われていたではないか。異星人であり、ましてや、敵対した地球人など好いてくれるはずもない。彼は誇り高きサンドリアス人なのだ。生きるべきは、私ではなくて、きっと……カゼルマだ。


title Mr.RUSSO

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