ハッピーエンドの向こう側の話



遂に僕たちの寿命を延ばすワクチンが出来たらしい。だけども、そのワクチンには僕たちの能力を殺す効果もあるらしい。つまり、僕たちも古い人間と同じに成る代わりに寿命が古い人間と同じくらいに成るという事だった。苦しげに表情をゆがめ、ベッドの上でくの字に体を折り曲げた名前が「そうなんだ」と言った。能力が著しく低下している。もう僕たちと一緒に活動をすることができないと僕が判断して、少しでも負担を減らそうという事で療養させている。……知っていたんだ。名前は僕より、少しだけ年上だからもうそろそろなんだってこと。名前にそんなことを言ったことは無いけれど、自分の事は自分がよく知っているんだろう。死ぬ前の独特のあの慈悲に満ちた瞳をしていて、僕たちを見つめていた。ぎゃあぎゃあと死にたくないなどと騒がないから余計に僕は申し訳ない気持ちにさせられた。



「僕たちにはできなかったことだ」ねえ、嘘なんだよ。僕たちだって早死にしたいわけじゃない。死の先は暗くてよく見えない、暗澹としている。だからこそ、人間は古来より死を恐れる。僕も本能で恐れていたのかもしれない、僕たちと同じ力を持つチームメイトが死ぬたびにそれを増幅させた。僕たちの本拠地の裏庭は墓に成っている。それは、死をより身近に感じさせる。おじさんたちに彼らの死体を取られるのは非常に不味いことだったから僕たちで彼らの魂を弔い埋葬しようという事でこうなったんだ。僕が決めたんだ。きっと、おじさんたちに死体を取られたらまず、なぜこのような能力を使えるのかということで解剖に回されて切り刻まれてしまうんだ。死んだ後なんてどうでもいいって言っては見せたけどやっぱり、切り刻まれたくなんかない。僕たちも武器の開発の合間に少しでも寿命を延ばす薬なんかを開発しようとして試行錯誤した。だって、このままだと勝っても短い天下だろう?……だけど、結果は惨敗だった。そうしている間にエルドラドのおじさんたちが、成し遂げてしまった。「名前、生きたい……?辛い?ごめんね、名前。裏切るのは許せないと思う。だけど、名前が好きだから死なれたくない。僕もどうしていいのかわからない」



このままだと名前は間違いなく死ぬのに。僕は名前の顔に両の手を添えて涙を零した。大人に成れない僕たちは、その小さな心臓を時間に握りしめられている。「私、子供のまま死ぬよ。サルを裏切りたくない」「裏切られるのは嫌だ、だけど……名前がこのまま死ぬくらいならば、古い人間に成ってもいい。僕はこのまま、名前が弱って死んでいくのを見ていたくない」僕はきっと、名前が古い人間に成ったとしても、名前を変わらずに愛しているよ。外が騒がしくなってきた。どうやらもうすぐ試合が始まる時間が迫っているようだ……。「行ってらっしゃい、絶対に勝ってね。私も試合、出たかった、」元々は選手として出てもらう予定だったのにね、あまりにも君の体が急激に弱るから。此処で待っていてね、名前と囁いて名前の額にキスを落とした。それから、腰かけていたベッドの端から立ち上がった。「行ってくるよ、名前」



僕の世界が変わった日なのかもしれない。本当に彼らは凄かった。……僕たちは負けてしまったけれど、友達や仲間の存在を教えてくれた。今は感謝の念すらあるほどだ。……ワクチンを皆で打つことに決めた僕たちは、あの余韻に浸りながら本拠地へ戻った。何人かはすでにワクチンを打ち終えていた。僕も後日、打つつもりだ。……というのも、僕よりもワクチンを必要としている人がいるからだ。僕はきっと、今すぐ死ぬってわけじゃない。だから、後回しでいい。僕は一本だけ、おじさんたちに頼んで持ち出した(本当はあんまり持ち出してほしくないみたいだけど事情が事情だからと許可してくれた)。壊さないように手で注射器を持って回廊を駆ける。名前の居る部屋までひどく遠く感じた。扉を乱暴にあけて、捲し立てた。「名前。遅くなってごめんね。負けちゃったよ、でもね。僕たちも、普通の子供に成ろうと思うんだ。ワクチン持ってきたよ、これで、きっと名前も死なずに済む。僕はまだ打っていないけど、もう何人か打ったよ。僕もちゃんと後で打つから安心して。今、必要なのは君だから、ね。安全は保障されているから、安心していいよ……、名前?」



ワクチンが手に入ったことで喜んで捲し立てたせいで、気を悪くしたのかな?とか体調悪いのかな?って思った。でも、僕の考えたどれでもなかった。ああ、可能性はゼロなんかじゃなかったよ。寧ろ、死は名前と密接な関係で、ワクチンが手に入らなければ、今までの仲間の死から計算してあと数日程度の命だろうとすら宣告されていたよ。だけど、これは、あんまりだ。ジジ、ジと機械音がして振り返れば観客がまばらに成っているスタジアムの映像が浮き上がっていた。……僕たちの事を此処で応援して見ていたらしい。仲間に連絡をしてすぐに名前を病院に運んだけど、手は尽くしたけれどもう駄目だって言われた、連れていった時点でもう手遅れだったみたい。何で?って僕は聞き分けのない子供のように縋ったけれど何もかもがね、遅かったみたいなんだよ。息を止めて随分の時間が経過していたみたいでさ。もう手は施しようがないって。



僕がもっと早くに気が付いていて、ワクチンを名前に与えていたら変わっていたのかな、って僕はメイアに言葉を零してみればメイアは僕の背中を擦っていった。「サル、あのね……とっても言いにくいんだけど、きっと間に合っていたとしても名前は死んでいたわ」「なんで?」名前は君にとっても大事な友人だったからふがいない恋人の僕を責めるのもわかるけど、どのみち死んでいたなんてあんまりじゃないかって情けなく嗚咽しながら言えばそうじゃないと首を振った。「……ワクチンの効果が即効性だと思う?……違うよ、サル。あれは即効性の物じゃないし、一度で何とかなるものでもない」「あはっ、はははは、何もかもが手遅れだったって言うの?ねえ、僕が悪いのになんで名前が死ななきゃいけないの?僕が居なければ、僕の下らない感情が上回らなければ名前は助かったのに」「違うよ、サル。あまり自分を責めないで、ね。一番辛いのは名前を愛していた貴方だって私にはわかるから」だから、今は沢山泣いていいよってギリスの事はいいのかいってくらい僕をあやした。ねえ、でもね、メイア。……誰かが僕を責めてくれないと、僕が救われない。間接的に殺めたのは僕だ。



名前の遺体は頼み込んで、仲間たちの元へ……埋めた。僕もきっと、此処に埋まることに成るだろう。解剖は何とか阻止した。恋人が切り刻まれるところなんて想像もしたくない。だって、大丈夫だよ。もうセカンドステージチルドレンなんてさ、世界から居なくなるから。きっと。だから、こんなことも、こんな思いをする人も、もう居なくなるんだよ、



これはハッピーエンドの続きで他の人には、語られていないお話。人々が、喜びに満ちお祝いムードで喧騒としている中、一人の小さな子供がこれは本当のハッピーエンドなんかじゃないと訴え泣き続けました。それでも、その子を除いた皆は幸せです。皆、皆、真の平和が訪れたと幸せです。もう二度と小さな子供に怯えることがない世界を作り出せたからです。その子以外は本当に幸せでした。……本当にこの物語は真の意味でのハッピーエンドでしたか?


ハッピーエンドの向こう側の話


おまけ。

間に合ったパターンの没。でもやっぱり死にますんで。


名前はとても弱っていたけれどワクチンを打つことには成功した。僕は気が緩んでいた。これで、名前は助かるんだって、信じていて疑う心を持っていなかった。なのに、翌日に冷たくなって横たわっている名前が居て、僕はおじさんたちに毒を渡されたのかと憤って、詰め寄ったけれど答えは案外シンプルで、人間の体温の物ではなかった。「あのワクチンは即効性のあるものじゃない。魔法じゃないんだ。少し時間が必要なんだ。……きっと、すでにその子は弱っていたんじゃないのか?手遅れだったんだ」ってさ。言い返せなくて僕はただただ、後悔の中を漂うだけだった。魔法も奇跡も、偶然も……この世界にはないのだと思い知らされるのだ。そして、僕は無力な子供にすぎやしないのだと言われるのだ。さあ、幕を閉めてくれ。これ以上僕の無様な姿を晒す必要はないだろう。

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