マイナス感情



夜桜君は本当に変わった子だ、いつも何が可笑しいのかわからないけれど笑っている。ただ、楽しくて笑っているのならばいいのだけれど、そうでなくても笑っているから正直不気味で私は苦手だった。そのくせ、私に何かと話しかけてくるから恐ろしい。プツンと、糸が切れたように笑い出す彼とは世界がまるで違うような気がしていた。忌憚はしないけれど、あまり触れたくない。とはいえ、彼は可愛い、目の保養になる。だから遠巻きに見るくらいが丁度いい。



「あーはははは!名前って俺のこと嫌いだよねぇ?」ギュと私の後ろからいきなり抱き着いてきたと思ったらこんなことを口走る。嫌い、とまではいかないにしても、刺激はしたくない相手であることは確かだ。何を考えているのかがわからなくて、怖い。本心が見えない。なるべく刺激しないように、抱きついてきた夜桜君をそのままに言う。「そ、そんなことないよ?」「……じゃあ、好き?」私はその質問に心臓を痛め、苛まれながらもなんとか一番無難な答えを見つけ出した。夜桜君は嫌いじゃない、だけど。「……普通かな?」


無難な答えに夜桜君は納得がいっていないのか、腕に込めている力を強める。悲鳴を口の中で殺す。首筋にかかる吐息、人間の体温。私は強い力に屈していた。「あははは!嘘つき嘘つき!あは、はは!俺はねー好きだよ!でもねぇ、名前は同じじゃなくていいんだ!あっはは!」一方的に捲くし立てる。それは、恋心なのかはたまた、友人に対するそれなのかわからないが嫌な音を心臓は立てる。みぞおちの辺りがキリキリと痛くなってきた。「あははははは!!何でもいいんだよ、例えば憎いとか、嫌いとかで!ふふふ」「……どうして?」



笑い声は途絶えることがない、意味のわからない言葉を口にして夜桜君が爆笑している。憎しみや嫌いって明らかにマイナスな感情のはずなのに夜桜君はそれでいい、というものだから私は惑乱してしまう。普通、好意を持った相手には同じように好意を持って欲しいものではないのだろうか?一般的にはそうだろう。私だってそうだ。それなのに、後ろに回りこんでいる、赤紫色の髪の少年はそれでいいという。「あはっ、ひははは!何でもいいんだよ!興味がないって言われるよりは俺のことを嫌ってそれで、あはは、頭を一杯にしてほいしいんだよ!」首筋に顔を埋めて、甘えるような仕草を見せる。稚拙な愛情に私は戸惑うばかりだった。「俺のこと、嫌いでいいよ。嫌いで、あふふ、ははは」だから、その代わり俺のことで頭の中埋めてよ!あーっはははは!頭の中で反響する笑い声。きつくまわされた、腕が緩められるまで私は硬直していた。ああ、彼はやっぱり違う世界の人間だ。


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