買い食い



寒さに身震いをしながら、コンビニの自動ドアをくぐった。コンビニのアルバイトのお姉さんがこちらに見向きもせずに自動ドアが開いたときに鳴った音でいらっしゃいませーという。買い食いをする予定だっただけなのだが、ふらふらと何かめぼしい物を探し店内をうろつく。店内を散策していたら、本のコーナーで見知った顔を見つけて僕は恐る恐る話しかけた。「……名前さん……?」名前を呼ぶと、肩をぶるりと震わせて読んでいた本から顔をあげた。やっぱり、同じクラスの女子の名前さんだった。人違いだったらどうしようかと思ったよ。名前さんは読んでいた雑誌を、棚に戻した。「驚いたー。礼文君じゃん。こんなところで会うなんて偶然だね〜」ケラケラと小さく笑う。店内はガランとしていて、僕と名前さんだけのようだった。「礼文君どうしたの?何か買い物?」名前さんが休む暇もなく僕に質問を浴びせてくる。僕はそれに苦笑しながら、答える。「うん。寒いから……。なんか暖かいものないかなーと思って」今は何か面白いもの出てないかな〜……と店内を散策していた。というと名前さんがにっこりと笑う。




「そうかそうか〜。私もねー、寒かったからなんか暖かいものを、って思ったの」名前さんもコンビニに入ったのは同じ理由らしかった。「ついでに、外寒いでしょ?だから、少しだけ温まっていたの」未だに雪が降り続いている、外を見て目を細めた。止む気配はない、今日は細かくてさらさらの雪だから良いけれどたまに冷たい水を含んだような、重たい雪が降る。僕はそういう雪が嫌いだべ。「折角だし、一緒に帰ろうよ。買い食い、するんでしょ?」悪戯な笑みを浮かべて地面においていた鞄を手に取った。そして、歩き出す。暖かい飲み物のエリアに来ると名前さんはうーんと唸りながら、ココアとコーンポタージュを物色していた。冬の定番の暖かい飲み物だ。僕は肉まんとかそういうのにも心惹かれるのだけれど。確かに飲み物もいいな。ああ、悩む。どうでもいいところに悩む。



「うーん……私ココアにするかな。礼文君はどうする?」ココアに決めたらしく、名前さんの手には小さめのココアの缶が握られていた。少し熱いのか、すぐに服の裾を掴んで布越しにそれを握る。「僕……?僕は……そうだな……コーンポタージュにするべさ」僕はココアの隣に陳列されていた、コーンポタージュを手に取った。ふたりで、会計を済ませた後に外に出ると降り止まない、白い雪が僕たちを迎え撃った。容赦なく、顔や手に吹き付けられるそれに僕らは怯まずに歩みを進める。人々の、足跡を辿るように先程買ったコーンポタージュを片手に歩く。真っ白い湯気と、息が空に昇っていくのを見上げながら無言で。……無言って、心地いいものと不安になるもののふたつがあるそうだけれど……それは本当なんだなぁ。その日のコーンポタージュはいつもと変わらないはずなのになんだか、特別な味がした。


おまけ

「あれ、礼文君と……名前さんだ」二人に近づいて、話しかけようとしたときに僕はすぐにそれをやめた。仲睦まじそうに2人で並んで歩く姿はさながら恋人のようで。勿論、そんなの僕の目が可笑しいだけなのだろうけれど。だって、僕の知っている限りでは名前さんは今誰とも交際していないはずだし。……でも、悔しいなぁ。僕も名前さんのこと好きなのに……礼文君に先を越されちゃうんだもの。偶然とはいえ、こんな現場を見せ付けられてしまうはめになるとは。僕が思案に暮れていたら突然白いマフラーが風に煽られ、僕は冷たく痛む耳に触れた。耳が千切れてしまいそうなそんな鋭い痛み。



「僕もコンビニ寄ろうかな」呟いた言葉は冬の冷たい空気に浚われた。僕がコンビニに向けて足を進めるとそれを後押しするように冬の風が僕の背中を押してくる。それと一緒にさらさらの細かい雪が叩きつけられる。……雪は降り止まない。

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