神童



「神童、好きだよ」数度パチパチ瞬きを繰り返しくすんだ、灰色をぶつけてやると、一瞬だけ口をつぐんだ。嘘つきの口は何度、塞いでも無駄だと嘲笑するかのように、繰り返す。何故、名前は俺に愛の告白ともとれぬような幼すぎる愛を語り続けるのか。まだ、野生の鳥ですら美しく愛を奏でるであろう。緩やかな曲線を口元に浮かべ薄い唇にまた、言霊を運ぶ。


「神童が、好きよ」また、だ。数えるのは余りにも愚かしい。愛の言葉はまるで名前自身言い聞かせるように言っているようにさえ聞こえる。そして、さも俺を愛しているかのように囁くものだから。錯覚を、勘違いを脳は起こしてしまう。俺も所詮、人間で。偽りと言えど囁き続けられた愛は悲しいほどに胸に焼き付いて、離れないのだ。そう、たとえ嘘でも。愛した女性からの愛の言葉を俺は信じてしまいたくなる。嘘だとわかりきっているのに。「嘘をつくな」



だって、お前の瞳は未だに霧野を愛している。そう言っているのだ。それでも、自分の気持ちに嘘を吐くように、誤魔化すようにほの暗い深淵から嘘の愛を捧げ続ける。ああ、まだ動物のほうが自分の気持ちに素直だろうよ。直視できないほどに、纏い続けた嘘は何処までも肥大してゆく。呪いとも取れる言葉で俺を縛り続ける。嬉しいはずの台詞には落胆させられる。早く、忘れて俺だけを選んで欲しいのに。だって、霧野はもう名前を愛していない。名前は賢いから、わかっているはずだ。


「愛しているの」自分の気持ちを殺して、嘘を吐く。十日、二十日……千日……長い年月を隔ててやがて、それらが本当になることを望んで俺は乱暴に貪り食うように、荒く口付ける。こうすることで、ようやく名前は俺に対して嘘を吐くのをやめる。何も言わなくていいんだ。まだ。


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