忘れ物注意報



近頃は毎日が恐怖です。何でかといわれると、問題はこの間席が隣になってしまった恐ろしい、髪型と性格をした不動君のせいです。折角、隣は窓という超優良な席なのにも関わらずお隣のせいで私は心が休まりません。ぶっちゃけ、エアーな男子がよかったな……。というか、女子が良かったな……。もっと欲を言うのならば、仲のいい友達。勿論そんな、我侭な理想はまかり通るはずもない。もう、不動君以外なら誰でもいいや。なんて思っているそんなレベル。その目も髪型も、誰に対しても荒く敬うことをしないその口調も行動一つ一つも怖くて仕方がない。畏怖の対象なのだ。ああ……これから数ヶ月間?程一緒かと思うと心臓が痛い。



お隣に気がつかれないようにそっと、息を吐いた。息をするのもひやひやするって重症だろう。たまに不動君は、何処かへサボりに行く。多分、屋上とかその辺。その時は心の中で歓喜している。ばれたらただじゃすまないんだろうなぁ……。多分、放課後におよばれするだろう、悪い意味で。ああ……考えただけで膝が笑うよ。私、何も悪いことしていないのに、なんで神様はこんな残虐な試練を与えることが出来るんだろう。本当は休みたくて仕方ないんだよ!



「おい、名前」乱暴な声が耳元から聞こえてきた、ひっ、と小さく悲鳴をあげると気分を害したのか瞳を歪め細めた。此処から先の言葉は、席が隣になってから何度も聞いたからなんとなく聞かなくてもわかる。“教科書とか全部忘れた。”だろう。「全部忘れた。見せろ、あと貸せ」ほーら、どんぴしゃ。彼は学校に何しにきているんだろう。他の人から借りてほしい。いえませんよ?そんなこといえませんよ?後が怖いから。無言で、席をくっつけて教科書と筆箱からシャーペンを貸してやった。不動君は無言でそれを受け取る。お礼も言ってくれない。別にお礼とかそんなもの望んでいないけれど、お礼言うのは礼儀ではないのだろうか。あ……彼に礼儀を求めても無駄か……。こんなこと言葉にしたら明日の朝日は拝めないな。



チャイムが鳴った。何度も何度も時計に目を向けていた。早く終わらないか、終わらないかと。おなかが空いて仕方がなかった。もう、途中でお腹鳴るんじゃないかと戦々恐々としていた。途中で鳴ろうものなら、不動君にはっ、と鼻で笑われた挙句に馬鹿にされることうけあいだ。そんなのごめんだ。ただでさえ、こんな関係、涙を飲んで続けているというのにこれ以上苦痛を味わわなければならないなんて……。私は教科書や勉強道具を全て鞄にしまい、代わりに弁当箱を机にだした。おなかが減った、腹がならないように少し手で腹を押さえた。机に突っ伏していた、不動君がようやく、顔をあげた。「……やっと終わったのか。たりー……」授業中、聞く気もなかったのかずっと机に突っ伏して寝ていたのだ。それだったら、わざわざシャーペンとか借りなくてもいいんじゃない?とか思ったけど怖くて言うことはできなかった。ああ。私の意気地なし……。言わなければ席が変わるまで永遠に、こんな関係だよ。そんな気がしてならない。



不動君が適当に調理パンを机に無造作に置く。買ってきたらしい、シールが張ってあった。シールを五枚集めれば某兎さんの皿が貰える……らしい。見向きもせずに、袋からだして柔らかなパンにかじりついた。私も弁当箱をあける。今日もむなしく自分で作ったご飯だ。ああ、もうご飯を作ってくれる可愛らしい子か、オトメンな彼氏募集したいね。私のために毎日、弁当作って欲しい。お……なんか古臭い告白みたい。(俺のために毎日味噌汁を作ってくれ!的な……。)毎朝早起きとか、寝不足になってしまいそうだ。不動君が横目で私を見ていたのに気がつき、怯んだ。もうパンは跡形もなかった。食べるの早いなぁ……と思ったや、否や私の弁当箱の隅にあった甘めに作ってある卵焼きを素手で取って、口に放り込んで咀嚼した。ああっ、私の朝の努力の欠片が……!



不動君に逆らえるわけもないので、その言葉を飲み込んだ。なぜ、彼は私の弁当のおかずを取ったのだろうか。おなかが減っている私に残酷なことをするのは、控えてほしい……。これで、おなかがなったら不動君のせいだ。絶対そう。「あめぇ……」一言ぼやいた、不動君を睨み付けた。人の弁当のおかずを取っておいて、それが感想……?せめて、美味しいとか言ってくれれば不動君の印象も少しは回復すると思うのだが。不動君の見た目とか性格とか諸々を考えるとそれは難しいことだ。大体、甘く作ったのは私のためであって、彼のためではない。誰かに食べさせる予定なんかなかったのだから。もう戻らない、胃袋の中の卵焼きに別れを惜しみつつブロッコリーを突いた。色鮮やかな弁当は見ていて、食欲をそそる。と思ったらまた、不動君がブロッコリーの傍にあった人参を摘み上げて口に入れた。ああ……なんてことだ、二品も取られたなんて。今この学校中で一番不幸なのは間違いなく私だろう。酷い……むごすぎる。



「……なんか足りねーから、明日から俺の分も作ってこいよ名前チャン」鮮やかな赤を口から覗かせ、前髪を揺らした。拒否権がないような、そんな有無を言わさぬ言葉の圧力。私は泣きそうになりながら、頷いた。むごすぎる……。私が断れないと知っていてどうせいっているんだろう……?私は少し少なくなったおかずを箸で突きながら、嘆いた。



「そういえば、最近不動のやつちゃんと授業にでているわね」友達の小鳥遊ちゃんが主の居なくなった椅子に座りながら、私にそういってきた。小鳥遊ちゃんは、少し言葉が悪いけどとてもいい子で可愛い子です。こんなこというと顔を真っ赤にして怒られるから言わないけれど。しかし、小鳥遊ちゃんの言う意味がわからなかった。だって、たまに居ないよ?さぼっているよ?というと小鳥遊ちゃんが口を一度噤んだが、また喋りだした。「いや、なんていうかぁ……サボる頻度が減ったんだよ」組んでいた足を崩して、私の机に手を伸ばす。ピンク色の髪の毛がふわふわ揺れる。それに少しだけ、触れてみたくなって手を伸ばそうとして、すぐに引っ込めた。


「……それが本当だとしたら……私を虐めたいだけじゃないの……?」本当なら小鳥遊ちゃんに席を交換してほしいくらいなのだが。「不動が興味を持ったとか……?」興味深そうに、思考の海に小鳥遊ちゃんは沈んでいっていた。ははは、ご冗談を。……冗談だよね……?否定してほしい相手は相変わらず考え込んでいる。否定の言葉は返ってこない。私は小鳥遊ちゃんの顔を見つめながら今日隣の不動君がしていたように、机に突っ伏した。

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