星降



後ろに腕を組んで、足を投げ出して冷たいコンクリートの地面に寝そべって何処までも広がる青空を見上げた。雲がぼんやり太陽を覆っていた。隣に腰掛けている名前も見上げる。下では別の学年が体育の授業をしている。「そういえば、香宮夜さ何か欲しいものとかある?」名前の瞳は青空ではなく香宮夜が映っていた。香宮夜はぼんやりとまどろんだ意識で名前の声に耳を傾けた。欲しいもの、といきなり言われても何も思い浮かばなかった。「……名前がほし……いたっ!」



名前が欲しい、とほぼ言い終わったときに鈍い痛みが頭を襲う。軽く殴られた、と気がついたのは名前の顔が目の前、一杯に広がった時だった。軽く頭を擦りながら、睨みつける。「真剣に聞いているのに」「……真剣だよ、俺。何も、殴ること無いだろ……」欲しいものは本当に、何も無いんだ。と体を起こした。コンクリートの地面にずっと、背をつけていたからか少しだけ痛みを感じた。ぐっと伸びをして、名前を正面から見つめる。寝そべっていたせいで、少しだけ乱れた髪が色気を放っている。



「大体、何でいきなり、欲しいもの?」浅く息を吐き出して、今度は壁にもたれかかる。けだるそうに制服の袖をまくる。雲が覆っていたはずの太陽がひょっこりと顔を出していて、忌々しげに睨む。「だって、香宮夜の誕生日もうすぐじゃん」「……あー。そうだったな。だから、名前がほしい、って……拳を振り上げないで。怖い」名前の握り締めていた、きつい拳を香宮夜が手のひらで覆って解いた。何度も殴られるなんて、たまったものではない。といった様子だった。


「何で彼氏をさっきから何度も、執拗に殴るの。怖い」「香宮夜が変なこと言わなければ殴らないよ」「変なことって何。可愛い彼女とその日を過ごしたいなーって思うのはダメなの?」上目使いで、お願いするように言う。知っていた、名前がこういうのに弱いということを。香宮夜の作戦である。自分の容姿をよく知っているからできることだ。「うっ……」言葉を詰まらせた名前が目を泳がせた。これを断るという選択肢が頭の中には無かった。はいとイエスの選択肢だけがちらつく。ノーという選択肢がない。こんなのあんまりだ、と思いながらも名前は諦めたようにゆっくり頷いた。「わかったよぉ。でも、それとは別に何か……」「ん。わかった」「本当はさー、宵一と買いに行こうと思ったのに。あいつ直前ですっぽかしたんだよ。信じられない。あいつ適当だよね」



名前が不機嫌そうに宵一に対する不満と愚痴を零すと、香宮夜が目を見開いた。すぐに元通りになったが、不機嫌さが宿っていた。「はぁ?あいつと行こうとしたの?ダメだよ、あいつ軽いから。名前に手を出すかもしれない」香宮夜が辛辣な言葉を今この、現場にいない友人にぶつける。罪悪感とかはないのかいつもどおりの涼しい顔をしている。流石に名前もこれには哀れまずにはいられなかった。「と……友達なのに、そこまで言われる宵一って……。可哀想に……」「兎に角、名前は俺のなの。ダメだよ」恥ずかしげも無くそう、宣言してもたれかかっていた壁から離れて名前を抱きすくめた。

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