先輩と後輩の関係性



次のお話

「宵一に敬われたい。嫌、後輩なら誰でもいい」「……はぁ?いきなりなんなのぉ?ていうか、誰でもいいんだ?」名前の瞳は真剣そのもので、猫背だった背筋をしゃんと伸ばした。それに対して宵一は意味わからない。と、他の人の席の椅子を勝手に借りてきてそれを名前の近くにおいて座った。主のいない邪魔な椅子を乱暴に蹴ったりするあたり、宵一の性格が現れている。流石サッカー部、脚力が一般のそれよりあるのか椅子は音を立てて倒れた。「ていうか、敬われたいって何さぁ……。邪念が凄いじゃん。煩悩の塊って感じぃ」レンズ越しに、名前を映していた宵一は詰まらなさそうに欠伸をする。倒れた椅子に名前は哀れむように見つめ、ため息をついて立ち上がり一つ一つ丁寧に直した。「だーかーらー。宵一より私のほうが年上でしょ。ていうか、椅子蹴っちゃって。上級生の椅子なのに」「……だって、邪魔だし。仕方ないじゃん。たった一、二歳離れているだけでいばられてもなぁ。先輩って何が偉いわけぇ?」



ケラケラ、笑いながら足を組みなおしてなおも続ける。注意をする気にもなれない。人の話を真面目に聞くということ自体、彼の場合は珍しい。先生の話ですら真面目に聞かずに足を投げ出したり、机の上に乗せていることすらあると風の噂で聞いていた。「大体、名前は僕が敬うに値する人間?」「うっ……」言葉を詰まらせて、名前は考え込んだ。敬うにはそれに値するような人間でなければならない。部活をやっていない名前にはそもそも、後輩が存在しない。だけど、たまには先輩っぽく振舞いたいというのも本音だし……後輩に慕われる先輩、みたいなのにも憧れがあった。「とーにかーく。先輩って言って欲しい!敬われたい!慕われたいっ!敬語で喋って欲しいっ!可愛い後輩属性!恵まれない先輩に愛の手を!」



ぐっときつく拳を握り締め、力説していると宵一は呆れたように人を小ばかにしたような目で見つめていた。「……それが本音じゃん。ていうかー、僕は名前のこと慕っているじゃん。何が不満なの」「……だって、先輩に対する態度じゃない……。よっし!さぁ!先輩っていってごらーん!かもーん!」握り締めていた拳を解いて、大きく両手を広げた。確かに宵一の態度はどちらかというと先輩に対する態度とは言いがたいものがあった。「…………えー……やだぁ……」「お願いぃい……!先輩って言ってよー……いつも呼び捨てじゃん!敬ってないじゃん!せめてさん付けで……!」名前が土下座をする勢いで宵一に頼み始めると、流石に宵一もこれを断るのは可哀想だと同情したのか大きなため息をついた。結局、折れたのは宵一のほうだ。名前の頼みごとは断れないといった感じだ。「……わかったよぉ……。……名前先輩。これでいーい?」



全然敬う気持ちは感じられないのだが名前は感激のあまり瞳を潤ませていた。それとは対照的に宵一は呆れたように、名前の様子を観察していた。あまりこういった反応を見たことがないのか、少し興味深そうだった。「……いいっ……!凄くいいっ……!もっと……っ!」「はいはい。わかりましたよ……名前先輩ぃ」ガシガシと頭を掻きながら、感動に浸り恍惚の表情を浮かべる名前をもう一度、先輩と呼ぶ。「いい……っ。こんなに素敵な響きなのね、先輩って……!有難う宵一!」「満足しましたぁ?」「うん。凄くよかった。たまに先輩って言って欲しいかもしれない。」まだ、先程の余韻があるのか幸せそうに微笑んだ、宵一にはさっぱり理解が出来ないらしい。「えー……もう、やだよぉ。名前が僕の先輩とか勘弁してくれよぉ」「ひどっ……!そこまで言う?!今の流石に傷ついたよ?!」ショックを隠しきれない名前が先程とは違う意味で涙を浮かべている。少しだけ、困惑したような表情を浮かべた宵一が間延びした声で否定した。「あー。違うよぉ。僕は、先輩後輩って関係よりも……もっと違うものがいいな、って思っただけぇ。ま、そういうプレイ?がお望みなら少しくらいなら付き合ってあげてもいいけどさぁ」椅子にもたれかかりながら、挑発するように笑う。何を意味しているかなど、鈍いわけではない名前は理解していた。




「プレイとか変態みたいに言わないでくれる?私はただ、後輩を可愛がりたいだけなのに」宵一の言葉に名前は憤りを覚える。ただ、後輩を愛でたいだけでそれ以上はない。宵一の冗談だとはわかるが、宵一には可愛げがまったくないのだ。「そんな怒らなくてもいいじゃん。可愛い顔が台無しだよぉ?」「……はぁ、軽い奴。そんなこと思ってもいないくせに」言葉に重みがないので、名前は顔を更にしかめて宵一を睨む。不愉快だ、と言いたげだった。宵一はそれに怯むこともなく、億劫もなく喋り続ける。「本心だよぉ。……ねぇ、好きだよ」

「先輩後輩の関係じゃ満足できないよ、僕は」
西日に照らされる、宵一は自然に引き寄せられるように名前の唇にキスを施した。


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