彩り



男の癖にべたべた口紅なんか塗っている、あいつの唇が動くのをぼんやり眺めていた。女の私ですら、そこまでべたべた塗ったりしない。喜多ちゃんも何も言わないし。そんな、男か女かわからないような奴と家が近いせいか、一応友達だったりする。一緒に遊ぶ仲でもある。隼総とは一緒にいて、疲れないから好きだ。自然でいられる。「聞いているのかよ」不機嫌全開の声色で、私の体が少しだけ跳ねた。予期せぬ声だったからだ。「ごめん、聞いてなかったわ」右から左にいい感じに流れていった言葉。内容はこれっぽっちも頭に入っていなかった。隼総はチッて舌打ちを一度して、私を睨みつけた。おー、怖い怖い。私の顎に手をかけて簡単に上を向かせると、隼総は瞳をあわせた。なんだ、この意味のわからないシュチエーション。不安に瞳を歪めると隼総は気がついているのか気がついていないのか、言葉を続ける。



「お前、口紅とかしねーのな」「しないよ、あんたじゃないんだから。リップで十分」中学生なんだし、そこまでしなくてもいいかなと思って。と隼総の手を退かせようとした。すぐに、隼総のもう片方の手に阻止される。意図がまったくつかめずに瞬きをした。こいつは私をどうしたいんだ。「名前もつければいいのに」俺と同じ奴を、さ。と目を細めた。制服の胸ポケットに突っ込まれていた、口紅を片手で器用に取り出してキャップをはずす。ああ、なるほど。この意味のわからないシュチエーションはこれの伏線だったわけ、だ。「ほら、あんま動くなよ。ずれるから」逆らってもいいことはないので、私は黙って言うことを聞くことにした。普段から自分でやっているせいか、慣れた手で私の唇に紅を引いた。多分、隼総と同じ色だと思う。あせって、色なんか確認できなかったけれど……隼総は自分の髪の色と同じ紫色の口紅ばっかり塗っているから、直感でそう思った。たまに違う色の紅を塗っているときもあるが、どうもしっくり来ないのかすぐにいつもと同じ色に戻すらしい。前にそう学校の帰り道に話してくれた。確かに隼総といえば、もう紫色しか思いつかない。他の色も似合わないわけじゃないけど……なんか違和感を覚える。




「出来た。もう、いいぞ」固まっていた私の肩をポンと押すと同時に私は止めていた息を吐いた。いくら、隼総の外見が男か女かわからないとはいえ、男子があんな間近にいたらどぎまぎしてしまうし緊張もする。「……ん、中々いいんじゃないか?新品の一本やるから明日からつけてこいよ」ポイと投げられて宙を舞い放物線を描いたそれをなんとかキャッチした。コントロールはサッカーをやっているせいか、それなりにあるみたいだ。私に紫色なんか似合う気がしないのだけれど、賛辞を送ってくれた隼総には一応礼を述べる。「有難う。でも……こういうの、どうなの?」「……あ?どうってなんだよ。主語がねーぞ」「いや、ほら……そういうのは彼女?とかの関係ならわかるけど」言いにくいが、友達でやるおそろいなんていうのは普通携帯のストラップとかそういうレベルだ。実際に私と仲のいい友達とおそろいのストラップを、携帯にぶらさげているし。




隼総もそういうのがしたいのならば、携帯ストラップとか文房具程度でいいのじゃないだろうか。(こういうのって何か女の子っぽいけどさ。隼総とならば別にいいと思う。)だけど……これでは、あまりにも隼総との距離が近すぎる。「言わなきゃわかんねーか。……俺は、名前が好きだ」今まで見たことのないような真剣な表情をしていた。ほんのり、染まったピンク色の頬。「えっ。はy」全ての台詞を言い終わる前に先程と同じように私の顎に手をかけて、持ち上げると同じ色に染まっている唇をぎこちなく重ねた。私の返事を待とう、とかそういうのは一切ないらしい。突然のことで、目を瞑るのも忘れていた。拒絶する気にもなれず私はすんなりそれを受け入れる。唇が離れたときに見えた、自信のなさそうな隼総の柔らかな頬を手の甲で撫ぜた。「わかった、明日からつけてみるよ」




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