水鳥3



!おしまい


理解が追いつかなかった。気がついたら、私は水鳥に腕を引っ張られて抱きしめられていた。水鳥の体が震えていた。何故、水鳥は私を抱きしめたのだろう。友達だから?それとも、私が泣いてしまいそうなのに気がついたから?どの答えも適切ではない気がした。否、適切な答えとは存在するのだろうか。

やってしまった。私は何をしているんだろう。私の腕の中で暴れることもせずにピシリと凍り付いている名前がどんな顔をしているかなんて私にはわからない、怖くて離すことも出来ない。ここからどうやって動けばいい?友達としての抱擁ならば、美しい友情なのかもしれない。だけど、私は下心で動いた。情けなく震えていた、私は。

「好きなんだ」


水鳥の声が聞こえた。そんな馬鹿な。水鳥は天馬が好きなはずだ。これは、私の脳みそが作り出した都合のいい夢だ。のわりには、リアルだ。水鳥の声も体温も、鼓動も伝わってくる。今、此処で私は殺されても……幸せだ。好きな子に抱きしめられて、嘘でも……そんなことを言ってもらえるなんて。永遠に醒めなくてもいい、醒めないで。


取り返しがつかないことになった。私の感情のコントロールが出来なくなって。理性が壊れた。名前が泣いている。私の制服を濡らしていた。ああ、嫌だったんだ。そうに決まっている。いきなり、友達に抱きしめられてそんなことを本気で言われたら私だってドン引きだ。早く、離さないと……この腕を離さないと。嫌だ、名前を離したくない。


いつまでも包まれていたい。今なら、何もかもが許されるような気すらした。だって、これは夢だ。幸せな夢なんだ。夢ならば、許される。こんな、私でもきっと許してくれる。

「私も好き」

今度は私が、固まる番だった。私が予想していた答えはどれも残酷なものか若しくは……名前は優しいから、「有難う」って曖昧な笑みを湛えて、私から体を離すって思っていた。だけど、結果はそれらの予想のどれでもなかった。私にまわされた暖かい腕が、名前のものだって然程時間を要さなかった。


ベッドのスプリングが軋む音が、やたら響く。そういえば、まだ宿題終わらせていなかったな。とか、混乱して今はどうでもいいことが頭を駆け巡っていた。ただ、今はこの幸せな夢に浸っていたいのに。


どちらともなく、触れた唇は涙の味がした。



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