妄言



夢主が危ない人。無糖。

毒電波をいつも垂れ流す名前は本当に頭が可笑しいと思う。自分も完璧に正常な人間だとははなから思ってはいないが、名前よりは幾分……いや、かなりマシだと思っている。尾刈斗の生徒は変わり者が多い。それは俺を含めて、だ。俺自身、霊の存在を信じているし、怖い思いも沢山した。だけど、やっぱり名前は異質だった。常に何かの妄言を吐いている。それが一度もあったこともない、つまり名前の勝手な妄想だった。



前に聞いた話だと、富士山が近いうちに噴火する、だとか……あとは、海の水が全て蒸発して生き物が全て死に絶える、太陽が爆発して地球が滅ぶ。とか何の根拠もない変な話ばかりだった。いつも笑いながら口にする。不吉で、面白みもない、不愉快なお話を。至極、楽しそうに。俺には理解が出来なかった。名前と俺との間には境界線があってその境界線を踏み越えられない俺には、多分名前を理解することなんて不可能なんだろう。


「ねぇ、三途ぅ。そのうちにね、宇宙人が日本を攻めてくるよ!みーんな、皆、死ぬんだよ!!」その日の妄言は、少し趣向をかえたのだろうか、宇宙人が攻めてくるという面白い妄言だった。やっぱり名前は頭が可笑しいんだ。俺はそう思った。宇宙人なんて、いるわけがない。SF映画じゃあるまい。俺は鼻で笑った。はなから信じていない。いつもの妄言だと割り切っていた。「そうか、お前、薬を飲むのを忘れただろう」俺がそれだけいうと名前はキョトンと目を丸くした後に「ああ、そういえば、忘れていた」といって、瞳を糸のように細めた。飲めば大丈夫だ、きっとそんな悪い妄想もすぐに追いやることが出来る。



「ああ、やっぱり三途は信じてくれないんだね。でもね、いつか本当に起こること、起こること……」うわごとのように呟きながら、名前は白い錠剤を数粒手のひらに乗せて、水と一緒に飲み込んだ。そんなことありえない、ありえない。と俺は名前を諭しながらその日は別れた。



だけど、名前の言っていたことは本当になってしまった。緑色の髪の毛を天に向けた男が、学校を破壊して回っているらしい。そして、奴らは“宇宙人”だ、といった。ああ、名前の妄言だと思っていたのに、思っていたのに。名前は未来を予知していたのだろうか?それとも、ただの偶然なのだろうか。確かめたかったけれど、名前は今、大きな鉄格子のついた病院に幽閉されてしまったらしい。確かめるすべをなくした俺はただ、目の前の現実を見つめるしか出来なかった。

戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -