苺ソーダ



「あっちぃー……」平良が髪の毛を鬱陶しげに、手で払った。汗ばんだ首筋に張り付くそれに顔を顰めた。今年の夏も異常な気温で、夏ばてになってしまいそうだった。扇風機は回しているものの、生ぬるい風ばかりで気休めにもならない。クーラーは、調子が悪いし。本当ついていない。平良は少し長めの髪の毛を、後ろに束ねてゴムで縛った。「アイス食いたいなぁ……。カキ氷は作るのが面倒だ……余計に体力消耗する」「アイスか……。買いに行ってもいいけど、帰るまでに溶けない?」



家の中はまだ、扇風機を回しているからいいが。外はもっと酷いはずだ。コンクリートは熱を持っているし、太陽は雲に隠れることなくジリジリと肌を焼く。「……途中で、食えばいいんじゃないか?」成るほど、それはいい。行きと、帰りは辛いだろうけど。アイスは食べたい。それに、いくら暑いからといって平良と二人で、部屋でだらだらとしているのはいただけない。太陽に当たらないと不健康だしね。「じゃ、行こうか。最近室内にばかりいるしね」少し大きめの、財布をズボンのポケットに無理やり押し込んで立ち上がった。(中身が多いのかと聞かれたら、どちらかというと少なめ。と答えるだろう)



玄関のドアを開けると、むあーっとしたなんともいえない夏のあのじっとりとした暑さが肌に纏わりついてきた。とてもじゃないけれど、長袖なんか着られない。それくらい、暑い。太陽が照りつける、日焼け止めは塗ってあるものの結構辛い。あんなもの、雲で隠れてしまえばいいのに。「……あつっ…………もう、帰りたくなってきた……」玄関から一歩出るなり、弱音を吐いて私の家に戻ろうとする平良の手を引っ張った。「帰るって。そこは、私の家だよ?帰るなら、平良は平良の家に帰ってね」「……俺と、同棲……しないか……?」平良はどうやら、この夏の暑さで頭が少し可笑しくなってしまったらしい。真顔で急に変なことを口走り始めた。自分よりも背が高い平良の頭を少し背伸びしてぺしっ、と軽く叩いた。「平良、正気に戻れ……」「……俺はいつだって、正気だ……」と、平良は言っているが目が虚ろだ。間違いなく正気じゃない気がする。これは、早急にアイスを与えるべきだ。そして、頭を冷やしてあげるべきだ。私は平良の手を引きながらコンビニへ向かう足を速めた。



「いらっしゃいませ〜」女性の元気な声と共に、あいた自動ドア。涼しい空気が体をすり抜けた。外が地獄ならば、此処は楽園といったところだろう。しばらく此処に入り浸ってしまいたくなる。平良は他のコーナーに目もくれずに、真っ先にアイスのコーナーへと向かった。「やっぱ、王道にバニラか……いや、ソーダ食いたいな」ぶつぶつと呟きながら、しきりにアイスを吟味している。真剣な平良には申し訳ないが微笑ましい。大きな子供って感じ。「よし、ソーダ食おう。名前は決まったか?」どうやら、ソーダに決まったらしい。平良の手にはソーダアイスの袋が握られていた。「ん。ばっちり」手を伸ばして、気になっていた苺のアイスを手に取った。



「ありがとうございました〜」会計を済ませて、外に出るとそこはまた地獄だった。ゆらゆらと陽炎が、見える。やばい、やばすぎるだろうこれは。「うっわ……。さっさと食わないと溶けるな……これ」ガサガサとレジ袋から先ほどのアイスを取り出してそれを口に咥えた。薄い水色のそれから水滴が落ちる。私も苺のアイスを咥えた。ひんやりと冷たい。甘い、苺の香りと味が口内に広がった。ん、苺を選んで正解だった!「……苺もうまそうだな。少し……貰ってもいいか?」よっぽど幸せそうな顔でもしていたのだろうか、平良が私の苺アイスを物欲しげに、見つめていた。「食べかけだけど、少し食べる……?」溶けてきている、ピンクの物体を平良のほうに向けた。平良は気にする様子も無くそれに口をつけた。「……甘いな。あ、俺のもいるか?こっちも結構うまい」平良が自分のソーダを差し出した。太陽の光によってだいぶ溶けてしまったそれに私は少しだけ口をつけた。まだ、苺の味が残っているその口内にソーダの味が混ざった。「あー……。美味しいね」「だろ?」平良は無邪気な笑みを浮かべて、また溶けかけのアイスを舐めた。

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