シャッターチャンス



「名前ちゃん!」後ろから、私を呼ぶ声が聞こえたので振り向くと同時にカシャッ、とカメラの独特の音が聞こえた。やはり、というか……なんというか。ある程度、予測していた相手がカメラを片手に手を振っていた。また、お前か。とげんなりしてしまった私とは対照的にニコニコと笑っている。つられて笑ってしまいそうになる口元を無理やり、引き締めた。此処で笑ってしまえば間違いなく、奴の思う壺だからだ。「瑠宇君……やめてって、いつもいっているじゃない。何度言ったら、理解してくれるの?」なるべく、穏やかな口調で優しく諭す。彼は左右色の違う目を真ん丸くして、何度か瞬いた。「逆に聞くけど、何で駄目なの?」



ああいえば、こういう……。そんな言葉が頭の中を過ぎった。こういう、変なことをしなければ私も普通に接してあげられると思うんだけど。というか、黙っていれば可愛い部類に入るのに何でこうも変人なのだろうか、彼は。「あのね、それはね。私の了承が無いからだよ?」「成るほどね……じゃぁ、撮るね」やべ、またか!油断した!と思って急いで手を顔の前に持っていこうとしたが一歩遅かったらしい。ピカッと眩しい光が、目に入った。チカチカする。



「ねぇ……何で、私の写真なんかとっているの?」いきなりとられた、写真はきっとどれも酷い顔をしていると思うのだけれど。というか……彼は綺麗なものとか、美しいものが好きなはずだ。それなら、某学校に転校でもして「僕は美しい」とかほざいている、自称美の神様の元へでも行けばいいと思うんだ。……実物見たこと無いけど。自分でそう、自負しているんだからきっと、私よりかは素晴らしいと思う。「うーんとね、ファイルするよ」悪びれた様子を見せない。少しは反省してほしいのだけれど。「わからないなぁ……。もっと、綺麗な子にすればいいじゃない。何で私に固執するの?」「……え、わからないの?」瑠宇君が今日初めて、落胆したような困った顔を見せた。え、なんで落胆しているのよ。「わからないから、困っているじゃない」「そっか……。僕はね、名前ちゃんがどんな女子よりも綺麗に見えるから欲しいんだ」……それは可笑しいだろう。私は自分より綺麗な人を知っている。そもそも、私の写真をファイルするくらいならば、女優さんのブロマイドでもファイルしていたほうがよっぽど有益だと思うのだが。それに、私は被写体として最悪だ。


「……これ言っても、わからないんだ……。なんか僕、自信なくなってきた……」瑠宇君が、呆れたような疲れたようなそんな重たいため息をついた。私のせいで自信喪失?!「ただの、嫌がらせにしか思えないなぁ……」「違うよ!僕はね、名前ちゃんの笑顔で一杯にしたいんだよ!」だって、僕は名前ちゃんが好きだから!そう瑠宇君が笑った。あ、今のシャッターチャンスだよ!すっごく綺麗な顔で笑うんだもの、瑠宇君。釣られて笑ったら、またカメラが発光した。

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