延長線



「好きです、勿論、友達とか先輩とかではなくてそういう意味で!」そう春奈ちゃんから、聞いたのは確か一か月くらい前の話。私はとても驚いた。確かに前々からスキンシップが多いな。とは感じていたのだが、友達の皆もそんな感じだったし、大して気にも留めていなかった。私は春奈が嫌いではなかったし、春奈との関係がなくなるのが嫌だったから「うん、私も」って短く答えた。そのときの春奈の嬉しそうな顔は、今でも鮮明に覚えている。



で……今に至るわけだ。ぶっちゃけ、付き合う前も、付き合ったあとも然程変わらない。彼女は何を望んで私にあんなことを言ったのかわからなかった。いや、劇的に何かが変わるとは思っては居なかったのだけれど。普通の男女間とは違って、私たち付き合っているの。でへへ。見たいに惚気ることも出来ないし。春奈は、私をどうしたかったのだろうか。何かを変えたかったわけではないのか?それとも、ただ伝えたかっただけ?また、友達以上を望みたかったのか、はたまた私をからかったのか……それとも振られる覚悟で私に言って、ただすっきりしたかっただけなのか。ごちゃごちゃの頭で必死に可能性を考えても、本人にしかわからないことで結局私には何もわからない。今の状態はまるで、友達の延長線のようなものだ。友達と何が違うのかわからないでいた。



「難しい顔して……どうしたんですか〜?」相変わらずのスキンシップ。トン、と軽い衝撃が背中に走った。後ろから抱き着いてきたり、手を繋いだりとか結構頻繁にある。前々からだったけれど……今は、人目も憚らずにそういうことしてくる。ふざけてなのか、はたまた人の愛情に飢えているのか、人肌恋しいのか。「ねぇ、春奈」「なんですか、名前先輩?」甘えてくるように擦り寄ってきた、甘ったるい猫なで声を出す。私にしか出さない声、仕草。「春奈の好き、が未だによくわからないの」わからない、わからない、わからない。理解はしようとした。傍にいたい、離れたくない。好きだ、愛している。言葉の意味を、辞書で引いても私には納得できなかった。そうではないのだ。辞書の上辺だけの言葉ではなくて、もっとあると思うの。



「何故、私なの?友達と何が違うの?わからないの」他の友達でも、先輩でもよかったのではないのだろうか。そもそも、友達のままの方がよかったのではないだろうか、どう接していいのかとかわからない。友達と、恋人、何が違うの?私にわかりやすいように誰か説明して欲しい。私は何の取り柄も無い。あるのは、春奈の先輩と言う肩書きだけ。春奈は、傷ついた風でもなくただ、微動だにせずにそれを聞いていた。私が話し終わったのを、見計らって唇を動かした。



「そうですか。名前先輩……私は」しなやかな指先で、頬へと手を這わせた。暖かく柔らかい、掌。女の子の手だ。その行動に心臓が悲鳴を上げる。なんともいえない雰囲気に生唾を飲んだ。ゴクリ、と喉がなる。「先輩にしか、キスとかしてみたいって思いませんよ?」無邪気な笑顔を向ける。そのまま、グイっと顔を近づけたかと思うと私の唇にキスを落とした。目を瞑るのも忘れていた。それくらい、急なことだった。息が、かかる。こんなに間近で春奈の顔を見たのは初めてだった。睫が長くて、目もパッチリしている。そして、いつもより頬が紅潮している。意外な発見だ。私がまじまじと見つめていたのに気がついたのか、綺麗な微笑を浮かべた。「これが、恋なんじゃないんですか?」なるほど、なんとなくだけど理解した。そして、春奈にキスをされて嫌な気がしなかった私も、きっと春奈に恋をしているのだろう。心臓が早く一定のリズムを刻んでいた。

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