恋えと云う



(夢100/トニ)


トニ王子は庶民に溶け込んでいてよく王子様かどうかわからない節がある。今日も私の部屋に不法侵入をしていて、錠前を開けるのなんて朝飯前!なんてニッコリ、歯を見せて笑って見せた。それで私が着替えていたり寝ていたらどうするんですか!と少しだけ怒るとトニ王子はおどけて「そりゃ謝るだろう!ごめんなさいーって」心の籠っていなさそうな謝罪に呆れながらも柳眉を彼は潜めた。「本気で謝っているって。でも、名前のそんなところに出くわしたことないから大丈夫だと思っているけどな」と何処か愉快そうに言うのだった。トニ王子は今日も私を連れて大冒険の予感のする街へと繰り出した。トニ王子が私の手を強く引く。「行こうぜ!」



街のはずれ、草むらが生い茂る場所までやってきてトニ王子は地図を広げた。それは一体いつ持ってきたのだろう?と疑問に思っていたら「これな、俺の自慢の地図なんだぜ!」へへんと鼻を擦りながら、自慢げに得意げにそれを見せてきた。紙はボロボロで朽ちていて、何処か埃臭く茶色く変色していた。年季は入っているようだ。どうやら、今日はこの宝の地図でお宝さがしとしゃれ込もうという事らしい。トニ王子は草むらを掻き分けて、洞窟のある方面へと向かった。私の手を離さないで駆けていくので、私はついていくのに精一杯だった。



洞窟の中はひんやりしていて、ピチャンと肩に水滴が落ちてきてひゃっ!と悲鳴をあげてトニ王子にしがみついてしまって、トニ王子も「うおぁ?!」と奇声をあげて、驚いてしまった。二人して驚いている姿は滑稽だろうが誰も見ている人は居ない。二人きりの洞窟だ。途端に、恥ずかしさが込み上げてきてすみません!と謝りながら離れると今度は蝙蝠の群れが襲ってきた。バサバサバサ、鋭い風を切る音と共に大きく羽ばたく音が鼓膜を震わせた。それに今度は居ても立っても居られなくて逆走しようとしたところを腕をがガシッと掴まれた。「おいおい!お宝から逃げるなよ〜!あんなのにビビっていたら、お宝に巡り合えないぜ?」なんて困ったように眉を下げていたので女は度胸、勇気を振り絞って、前に進んだ。



前に進んでは、右に逸れたり、はたまた左の角を曲がったり。此処は中々入り組んでいるようだ。誰のお宝なのか?と聞いてみたけれどトニ王子は笑って「まだ秘密だ!」と自信満々に答えた。きっとこんなに色々曲がったりしているのだから、見つける人は少ないだろう。そう思いながらトニ王子の後を追いかけた。漸くトニ王子が止まったと思ったら大きな空間に出た。街の広間の様に大きなそこに圧巻されながら、おずおずと前に進むと、下に、大きな木製の宝箱が無造作に置いてあった。「此処だ!」とトニ王子が言う。それは見てわかるんだけどなぁ。と微笑ましく成りながら、錠前はトニ王子が開けてくれた。ギィと立てつけの悪いドアの様な音がして、それはゆっくりと開いた。



中に入っていた物は、おもちゃに、小さな小銭、それから形の良い羽子板。等が出てきた。「こ、これは……」「俺が各国を巡って手に入れてきた立派なお宝だ」エッヘンとえばる様に説明してくれた。「この羽子板なんかは、正月の時に他の国の王子と一緒にやったんだ」いいだろう?と見せつける様によく見せてくれた。「へぇ」「まぁ、相手が弱すぎて顔中墨だらけにしていたけどな」カラカラと笑った。「で、この小銭は超レア物でお金にすると何百万するんだぜ、一つで」そういうとそれが怖くなった。そんなものを此処に隠しておいて大丈夫なのだろうか、浮浪者とか万が一来て、箱を壊してこの小銭を持っていかれたらトニ王子落ち込むのではと危惧していたら次におもちゃを取り出した。これもプレミアついていたりするのかな?と思いきやさにあらず。



「これは、俺が子供の頃に使っていた玩具」そう言って玩具のお腹を押すとプー、と寂れた音が鳴った。「これは名前にやる。俺の一番の宝物だ!」そういって、玩具を私に押し付けた。くたくたに成っていて、ボロボロでだけど、トニ王子の一番のお気に入りの玩具で宝物で。それをくれることの意味を考えると何故か疼痛がしてやまなかった。私はその玩具を両手で受け取ると恭しく礼をした。「有難うございます、トニ王子」「へへっ、気に入ってくれて嬉しいぜ。それより、王子も要らないって言っているだろう?」なんかむずがゆくてしょうがない。そう言ってポリポリと頭をかいた。



「では、トニ」「お、おう……」二人とも照れていて何処かぎこちない機械の様だった。玩具を掲げて「これ、大事にしますね」「おう!俺の代わりと思って毎日そいつと過ごしてくれよな!」と笑った。何処か引っかかるけど、最高の宝物を貰った私にはもう関係が無かった。


Title 約30の嘘

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