安らぎの雲の温度



(夢100/トトリ)


名前の事は妹の様に思っていたがどうにも最近違う感情が芽生えてきたような気がするのだ。例えば、少し抜けている所とか見ているとどうしても手助けしたく成るし、彼女の為ならば忙しい執務を少しだけ放り出して、助けてあげたいと思う。そんな中、彼女が私の所に尋ねてきた。いつもの日常風景の一コマ。小鳥は囀り、私たちの再会を歌っている。困ったように柳眉を下げていた。手には大きめのダンボール箱が抱えられていて、重そうだったので、私がすかさず「大丈夫ですか、名前。私が持ちましょうか?」と尋ねた瞬間だった。「いえ、重くないんですよ……ただ「ワンワン!」子犬の鳴き声がダンボール箱の中から聞こえてきた。



一瞬空耳かとも思ったのだが、明らかにダンボールの中身が発していると思われた。そして、閉じられていた段ボール箱がパカリと開いて愛らしい子犬が顔を出した。尻尾ははちきれんばかりに左右に振られている。「これは……」「子犬です、捨てられていたんです。今日、トトリさんの所に向かう際に、ダンボール箱が置いてあって……」そして、中から子犬の鳴き声が聞こえてきて、とてもじゃないが、見捨てていけなかったと彼女は言った。そして、自分は一応旅をしているから、子犬はとてもじゃないが飼えないということも告げた。確かに彼女たちは旅をしている。時々色々な国に行っているようだが。私の所にはよく足を運んで貰っている。



「それで、お願いなんですけども」「ええ、わかりました」子犬を優しく抱き上げるとキューンと鳴き声をあげながら私の顔を舐めまわした。「ふふっ、くすぐったいですよ」まだ生後二か月程度の様に思えるその小さな体躯全部で喜びを示す。なんて人懐こい犬なのだろうと名前も嬉しそうに目を細めていた。「良かった。トトリさんが好きなんですね、その子」「そうだといいんですがね……ふふっ」そこまで話してハッと気づいた。私の城では犬は飼っていない。子犬用の餌も何もないし、リードも無いからお散歩もさせてあげられない。困ったな。と思い彼女に声をかける。「犬用の道具一式を買いに行きましょう。この子に合うものと、美味しいと喜んでくれるものを」「はい!」彼女は二つ返事で頷いた。



チリンチリン、ベルが鳴る。それは客が来たことを告げる合図だった。店員は私たちを見るなり驚いた表情をしていた。それもそうか、この国の王子の私とトロイメアの姫である名前二人が来店したら誰でも驚くであろう。子犬も入店してよい店だったので入店させたのだが、何にでも興味を示して面白い。玩具の一つを気に入ったのかそれを齧ろうとしたので取り上げた。「取りあえず、これは買いですね」「そうですね」名前が頷く。やんちゃ盛りなのだろう。玩具の一つ二つ買った所で直ぐに壊されてしまいそうだと籠の中に玩具を四つほど入れた。噛むと音が鳴る奴はお気に入りっぽかったので、二つ。



店員さんに聞いてみる。「この子に餌を与えたいんだけれど、どれがいいかな?」店員さんは機敏な動作で、缶詰を一つ差し出してこう告げた。「これ何かがよいかと。子犬でも食べやすい物です」「じゃぁ、それを」そういって大量に籠に入れ、リードを選ばせる。「名前は何色のリードが良いと思う?」「えっと、えっとこの黄色のがいいとおもいます」「何で黄色がいいと思ったんだい?」そう言ってそれを籠に入れる。別に何色でも良かったのだが、名前が何故この色を選んだのかが気に成ったので問うてみた。彼女は少しだけ頬を朱色に染めて、もじもじと手を遊ばせていた。話しづらい事だったのかもしれないな、と話しを逸らそうとしたときに答えた。



「トトリさんの色だから。でも、トトリさんの色はもっと落ち着いているけれど」そんな言葉が出てきて私はストレートにそれを食らってしまった。嬉しい、と感じてしまっている自分が居て、もう名前は妹みたいな存在だなんて見られないな。と自嘲した。帰り道、名前も軽い荷物を持ってくれたが重たい缶などは私が持った。早速リードに繋がれた子犬は色々な所で立ち止まっては匂いをクンクンと嗅いでいる。見る物全てが新鮮で凄い物に見えているのだろう。それにクスクスと二人して笑う。影法師が真っ直ぐに伸びていて、私はそれを追いかけるように歩き出す。



「トトリさん、また明日も来てもいいですか?」「勿論、子犬の事が気に成るんでしょう?」そういうと頷いた。だけど、それとも別のものを含意させた言葉を発した。「トトリさんにも逢いたいですから」夕闇のカーテンが手を伸ばしているがそれとは別の赤み帯びていた頬と耳を隠すように俯いた。


Title 彗星

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