桜、さくら…



(剣が君/シグラギ)
シグラギ処刑後のお話。


桜、さくら、誰かが唄っている。昨日、おやっさんから言われたのだが、シグラギ一味を処刑後、歌と共に花が供えられているとの報告があり、その者がシグラギ一味の残党じゃないかを確認してほしいと言われた。別に花くらいで一々大袈裟に騒ぐものじゃないと言いたいところだが、今は鬼と人との間で変わろうとしているものが有る。それは確かに目に見えないものだが、俺が帯刀を許して貰ったことで変わってきている。鬼だの人だの言わなくていい世界がその内出来るだろう。さくら、さくら……歌声が聞こえる。きっと、おやっさんの言っていた残党かもしれない。そう思いいきり立った様に、そいつを怒鳴りつけた。「おい!不審者、手前だ、手前!」「は、はい?」歌声からして女だとは思っていたがこんな夜更けに女一人で……とあきれ返ってしまった。暴行されてもしらないぞ……。とはいえ、何故花など。……見た所女は、鬼族ではない。つまり「シグラギ一味の残党ではない……な」「はぁ……。女一人に何が出来ましょうか?」と逆に聞き返されてしまった。



何故、次に花を供えるのか聞いてみた。女は寂しそうに微笑んで見せた。「シグラギさんは桜の花の様な髪で、綺麗でしたので。桜の花を供えているのです、斬鉄さんへは、美しい新緑を思わせる桜の葉を……」そう言って手を合わせた。鬼に。……シグラギ一味に花等供える人間等見たことが無い。「私はシグラギさんに七重さんと共に捕まった者です」「それがなんで、シグラギなんぞに花なんか……」言っていて気が付いた。俺は犯罪者や、被害者。それ以前に自分自身で鬼と人とを区別していたことに。「……シグラギさんは、人に里を燃やされたそうですね。斬鉄さんと二人きりでさぞ、寂しかったでしょう」そう言って瞼をゆっくりと閉じる。「桜を見ていると、どうしてもシグラギさんを思い出してしまいます」「お前はシグラギのしたことを許すのか?お前は……」言葉が喉元につっかえた。「……、私が許さなければ誰がシグラギさんたちを許すんですか?」



女は凛としていて、それでいて美しかった。さぁあ、風が吹いて桜吹雪が舞った。俺は相変わらず言葉を見失ったままだった。「……、」「人間に里を燃やされたから仕返しに、人間を殺して、そして、また、人間が恨んで鬼を殺す。……いつ、この無益な争いは、禍根は無くなるのでしょうか?ならば、私が許してあげなければシグラギさんはきっと天国へは行けない」「けっ、あいつらは地獄行きだろうがよ」「そんなことはありません。私が許したのですから、あの時、私に本当を語ってくれたシグラギさんが地獄行きだなんて、そんなことありません」「でも、あいつらは人間を殺した、その他にも罪は」数え切れないほどだと言ったけれど、女は言う。「死んでまで、罪に囚われるなんて、悲しいです」そういって、花を手向け、背を向けた。「螢さんでしたっけ。鬼と人の仲……変わればいいですね」涙声だった。俺は女に、適切な言葉をかけてやれなかった。



「おやっさん、この間の件ですけど」「ああ、その事か。どうだった。もう掴めたのか?」おやっさんが癖なのか顎に手をやって、俺に尋ねてくる。俺は「いや、シグラギ一味の残党では無かったですよ。ただの、女が花を手向けていました」「ほう、そいつぁ……」「しかも、そいつは、シグラギに捕まっていた女の一人だったんですよ」おやっさんは目を細めた。何かを思案している時の表情だった。それだけ聞くとおやっさんは手を腰に当てた。「……んー。まぁ。残党じゃないならもういい。放っておけ」「はい」……おやっさんにはわかったのだろうか、あの女の思惑が……。俺は見たことがある、あれは、愛しい者を亡くした双眸だった。さくら、さくら……。また、誰かが唄っている。「桜はシグラギの色……か、」俺にはそんな可憐な物には思えないが、な。

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