いつか夢に見たように儚く



(忍び、恋うつつの我来也)


もうお前に隠す必要も無いからな、と披瀝した我来也君の姿はれっきとした大人の男性で。私は子供の頃の我来也君との、違いに戸惑うばかりだった。それから可笑しいのだ、私は。我来也君を見るだけで私の胸は張り裂けそうな程にドキドキと鼓動して煩いし、また、幻術を発動させては悪いからと、友達の我来也君を避けてしまう日々が続いている。本当はこんなことしたくないし、我来也君を悲しませるってわかっているから嫌なんだけど。幻術にかけて勘違いしたくないし、我来也君だって嫌に決まっている。ということで、れくいえむ・ぽいんと……?に通う頻度は日に日に減っていた。もう、昔のように女子たちも意地悪はしてこないし、忍者としての基礎も身についたし、ドンドン忍者らしくなっていっている。これも、修行の成果だろう。我来也君も教室に来るように成って、猿飛君たちと談笑している姿がたまに目に入る。良かった、と心の底から本当に思う。今まで孤独に慄いていた、我来也君はもう、居ないんだ。そして、友達も私だけじゃないんだ。ふ、と視線を感じてそちらに目をやれば、我来也君がこちらを悲しげに見ていて、私は気が付かなかったふりをしてそっぽを向いた。



食堂、此処では嫌でも我来也君たちと一緒に成る。時間をずらしていた時期もあったけれど(修行で)、今は仲のいい女子も出来たし、此処で皆と一緒に夕餉を取るようにしている。今日は修行をしていたので、一人……だと思ったのだが、どうやら我来也君がいたらしい。「名前……、あの」「ああ、が、我来也君。今日は一人なんだね」大人の姿には未だに慣れないので、どうしても、どもってしまう。「ああ、僕は今日は書物の整理をしていたからな」そういって、夕食を机に乗せていただきますと手を合わせたので私も手を合わせて、いただきますと言って口を付けた。相棒期間中は沢山話した気がするのに、分け合ってきたと思うのに、何の会話も無く不気味なくらい無言だった。私は早々にその空気から逃げたくて、ご飯を食べ終わるのと同時に…………。



「あれ?」部屋に戻ろうと思った所から意識が途切れている。若しかして、食堂で寝てしまったのだろうか?確かに疲れは溜まっていたが、そんな眠かった記憶はない。「起きたのか」暗闇に目が慣れてきたところで此処が、れくいえむ・ぽいんとだということに気が付いたのと同時に、声の主が我来也君だという事に気が付いた。「なんで、お前は僕から逃げるんだ?僕にはお前しかいないのに。僕にはお前だけなんだぞ……?」母を慕う幼い子供のような切なげな声がする。もう孤独は嫌だ、そう言っているように聞こえた。だけど、もう我来也君は孤独じゃないはずだ。猿飛君や由利君、霧隠君が居る筈。なのに、何故私に固執するのだ。「だって、私、うっ……」頭がボーっとする。これは?「ああ、睡眠薬を混ぜておいたんだぞ!僕が作った特別な睡眠薬だからな、強力なんだぞ!」無邪気に笑う我来也君が何故か今日は怖く感じた。



「今日からお前は此処で過ごすんだぞ?だって、僕はお前が大好きなんだから、愛しているのだから」「我来也君、私、「聞きたくないっ!!聞きたくないんだぞ!」狂気を孕んだ瞳が大きく見開かれて、私を拒絶した。我来也君の手が私を桎梏した。「何故、僕を避けるんだ!何故、僕の前から居なくなる!何で、僕を見ない?!」なんでなんでなんで。繰り返される残響する。違うの、私は、我来也君が好きで。だけど、幻術を発動するのが怖くて、それで我来也君に嫌われるのが怖くて。全て言い訳にしか聞こえないのかもしれないけれど。だけど、私は我来也君が好きでした。口づけられた、唇は冷たく桃色の霧は霧散して、白くなった。それが何かをわからない我来也君は未だに狂気を瞳に宿して狂喜した。


Title エナメル

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