深海魚が空色の夢を見る時に



(剣が君/シグラギと看守)
シグラギはもれなく、斬首。注意。


キィキィ椅子の音が響く。それがやけに耳障りでシグラギはウンザリしていた。どれも粗雑な作りのもので、ご飯は美味しくないものが提供される。それもそうか、何故ならシグラギ達はもうじき磔にあうのだから、美味い物が出てくるわけがない。シグラギ自身納得しながら、看守をチラリと見た。どう見ても女である。普通は男がこういう役に付く物じゃないか、随分と舐められたものだなぁ、等と舌打ちをして今日も不味いご飯に手を付けようとしたところ。女がやってきてシグラギに提案してきた。「賭けをしないか?何。シグラギに損はないぞ。あるのは私だけだ、私が負ければ私のご飯の一部を提供しよう」はぁ、行き成りなんだ、とシグラギは思ったが、確かにそれなら自分には損害は無い。負けても勝ってもだ。そして女は懐からサイコロをだした。それを摘まみあげてシグラギに見せつける。「勝負はこれ、だ。わかるだろう?丁半だ、勿論サイコロには仕掛けは無い」そう言ってころころ転がした。丁半、シグラギには覚えがあった。仲間にやらせていた、あの賭け事である。「成る程、いいだろう」



この看守は弱い。何故だろう、看守は自分の美味しい物を寄越しては、それを頬張るシグラギを見て微笑ましそうにしていた。「うまいか?」「あ、ああ」モグモグと、普段は食べられない物に目を細めていた。豆は寄越さない、鬼族は元来豆を好まない。だからだ。だが、こんな日々にも終幕がやってくる。音を立てずに流れるときに身を委ね。ただ、死ぬのだな、とシグラギはただ、呆然と身も竦む思いで、苦しみ喘いでいた。斬鉄もシグラギ、その他自分たちに付き従った鬼は、全員、打ち首だ。



「……おい、看守」名前を知らないので看守と呼ぶ、看守も教えるつもりはないのだろう。情が移るからなどの理由で。なので、呼ばれれば行く。檻越しに、手を伸ばして看守の頬を撫ぜた。「……人間なんて信用ならないと思っていた。もう何もかも手遅れだけれど、お前に逢えてよかった。賭け事、本当は細工していたんだろう?俺が勝つように、と」「!……ああ」驚愕の表情を見せそれから、萎れたようにああ、と応答した。「なんで、いつも遅いんだろうなぁ。……お前が俺達の村を焼き払われた時に、俺達が暴走する前に現れていてくれたならば、何かが変わっていたかもしれない」他に言いたいことは沢山あった。だけど、その言葉を喉元に突っ返させたまま、無理やり飲込んだ。



「有難うな、」「ははっ、は、死ぬなよ、シグラギ。何故私たちには溝があるのだろうなシグラギ、私は」檻越しに、頭を寄せて口付けた。これ以上は何も言わせまいと言わんばかりに強く、口付けた。「これが最後だ」ザッザ……、足音が聞こえる。名前の同僚であろう。「時間だ。名前、此処からは危ないから俺たちがやる。薄汚れた下郎どもがさっさと縄に付け!」乱暴に蹴り上げたのを見て、名前はいつまでも埋まらない溝はこういう人間がいるからだ、と思った。それから処刑台に連行される、シグラギと擦れ違う。「名前、また、来世で逢おう」はじめて名前を呼んだ瞬間であった。



シグラギ達は予定通りに執行された。怒り狂う観衆と、物好きな人間たちの奇異の目に晒され。角があるだけで、酷く残酷な殺され方をされたようだった。後に処刑台にいけば、血が地面にこびりついていて、鉄の錆びたような臭いに鼻をつまみたくなった。「シグラギ、願わくば、来世で……逢おう」ツーと流れてゆく涙はきっと、シグラギに恋をしていたからだ。馬鹿な人間と怜悧な鬼の物語はそうして幕を閉じた。


Title カカリア

戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -