嗚呼、悪戯に頬笑むニセモノよ



(剣が君/九十九丸よりマレビト寄り)


九十九丸の姿をしたマレビト様は優しい。少し大きくなった九十九丸の姿を確認したとき彼はマレビト様と一体化したのだと気付いたけれど、九十九丸を好きだった私はついていくことにした。「長い間一人ぼっちだった」一人ぼっちは寂しい。と呟く、その度に「私は愛しているから、私が居るから、一緒だから一人ぼっちじゃないでしょう?」そう、幼子を諭すように愛しげに指先を絡めて言えば、正気に戻ったような九十九丸が「それは、俺の……、言葉じゃあないです、お嬢さん」「わかっているよ。でもね、あの人も寂しかったの。だから、私はマレビト様ごと九十九丸を愛すよ」そういうと筆の先の墨がもやりと広がるように九十九丸が唇を噛みしめた。それはまるで、悔しげでもあり憎しみを含んでいるような表情であった。「お嬢さん……、」九十九丸は焦慮していた。



いつの日か若しかしたら本物の九十九丸は居なくなっちゃうのかもしれない。名前はそう思う時がある、だけど。「どうした?彼岸花など見つめて。お前は俺だけを見ていればいい、そう。俺だけを」長い時間一人だった。その時間はまるで永劫の様で苦痛を与えるだけだった。そう、名前、お前が来るまでは。そう言って冷えた体で名前の体力を奪い去る腕。それがひんやり心地よくて、九十九丸に身を預けたまま。愛していると紡ぐ。例え九十九丸が傀儡だとしても。全てがマレビトに飲み込まれようとも、きっと私は九十九丸の形をしたマレビト様が好きだ。



もう九十九丸の意思は完全にマレビト様に飲み込まれたらしい。愛しい花嫁、そう言って私の頬を撫でる愛しい手の甲。「九十九丸は九十九丸でちゃんといるよね?」「勿論だ、俺がいるだろう?寂しい思いをさせないと言ったのはお前じゃないか」マレビト様にそう言って抱きすくめられた、線香の香りがして、それに悪寒が走るけれど今はただ抱きしめ返して、私は一人になんかしないよって教えるように彼の大きな背中を撫ぜてあげた。こんな場所にずっと居たら確かに気が狂うんだろうなぁ。あるのは横断する大きな川と、彼岸花のみ、それしかない。だから、彼は言った。「寂しい、一人ぼっちは嫌だ」と。時々現世が恋しくなるけれどマレビト様を愛し、寵愛を受けるのならばそれも悪くないな、なんて思ってしまう。青い瞳が射抜く。



「俺の花嫁、どうした。疲れたか?」「ううん」そういうと顎を掴まれ、急かすような口付けをした。何度も角度を変えては全てを奪われるような錯覚に陥りながら。倒錯する世界に、どさり。彼岸花の花畑に埋もれたおかげで衝撃は軽かったが、大の男性を受け止めるだけの力はなく九十九丸に押し倒される形に成った。「……!すまない、愛しさのあまり手加減を忘れていた」直ぐに退こうとするマレビト様が愛しくてそれが溢れだして、私はその背を抱きしめ子供のお遊びのような口付けをマレビト様に施した。「!お前は、……愛している、俺の花嫁」


Title Mr.RUSSO

戻る

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -