真実だと認めないといけない



(剣が君の斬鉄)
螢ルートの斬鉄たちの結末についてネタバレ


当たり前の日常が帰ってくるんだ、そう思い斬鉄の分の飯を炊く。「今日は鬼の磔ですってー」「恐ろしい悪鬼が、死んで当然よ」クスクス、悪意の含まれた笑い声は薔薇の棘のように心臓に撒き付いてギュギュと締め付けた。彼女たちはきっと“鬼の磔”を見に行くんだと思う。でもその中には斬鉄は居ない、きっと居ない。もう二日、三日ろくに顔を合わせていないし、この遊郭にも帰ってこない。ただただ寂しいという想いと恐怖に駆られた為か、表情が青ざめている、白粉をしても、紅を塗っても、手先が震えてしまう。今日初めてポタリ、おてんとうさまの機嫌が崩れた。



「何を泣いているでありんすか」「あちきらに言うてみなしゃんせ」「斬鉄様が、鬼が、」言葉は嗚咽とともに吐き出されてきていて背中を撫でてくれる同僚の二人が目を合わせて「あちきらが通すから鬼の磔とやらを見にいきなんし」「でも!」「いいから、どうせ今日の仕事は出来ないでしょう」ぴしゃりと当てられた言葉に立ちつくし、縫い付けられたように硬直してしまった。少しの長考と共に、名前は走り出した。走りにくい着物をひらひらはためかせて、お化粧もそのままに。もう既に大衆が集まっていた。そこを「どいてください」といって割り込む。



その中に斬鉄の姿が堂々と瞳に映っていた。新緑色の髪の毛を風に揺らせて、名前の視線に気が付き歯を食いしばった。何か言いたげだったがそれは、鬼から人へ向けての伝言に成ってしまう。名前の事を考慮してのことだった。シグラギや他の鬼たちも正座してその時を待っている。自分の生がこと切れるのをただただ待っている。最初に刀を向けたのは斬鉄にだった。皆盛り上がっている。興奮して、前へ前へと進もうとする人々に押され、名前も自然と前に進んでしまった。そして、血しぶきをあげて言葉も無く斬鉄は、



「あの子最近可笑しいでありんす、」「そりゃぁ、好きな鬼の磔を見たのだから。でもこれが現実だって教えなければあの子は前に進めない」あの日から狂ったように斬鉄の名を呼びながら、泣いたり、笑ったりを繰り返していた。マレビト様でよみがえらせようにもそもそも、五剣の持ち主と知り合いではないし、純潔の乙女の血では成らない。飛んだ首が跳ねるのを、血が吹き出し崩れ落ちたのを。瞳が脳裏が焼き付けて消えない。嘘だ、嘘だと現実逃避しても、きっと斬鉄は此処にはもう来ない。「本当はわかっている。……でも。これを受け入れたら全てを真実だと認めないといけない」後から溢れてくるのは想いで、斬鉄本人にぶつけようもなくて。ただただ頽れたまま、動けない。


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