天使も自殺する時代



(剣が君のシグラギ)
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手のひらを返したかのような名前をあの日俺は、本気で殺してしまいそうに成った。あの日から名前は怯えたような瞳を更に、揺らがせていた。いつ、殺されてもわからない、俺に心臓を握られていると思っているのだろう。こんなはずじゃなかったのに、と俺は後悔していたのかもしれない。その証拠に胸が張り裂けそうなほどに痛むのだ。疼痛が止まないのだ、おまけに頭痛がしやがる。鬼、それだけで俺を傍に置くことすらも拒むんだな、名前。俺との逢瀬も、口付けも、愛も。何処へ消え失せた?海の底か、この日の本の何処かの砂の中か、少なくとも俺には探し出せそうにも無い。愛とは何なのか、それは種族が違うとだけで失われてしまうものか?



わからない、朝も夜も無い時間が俺の中を通り過ぎていく。悲痛な叫びが今も、耳の奥の鼓膜にこびりついて離れない。「鬼族だって知っていたら私は、恋仲になんか成らなかった!!」「うるせぇ……、」うるせぇ、とまた呟いてそれをかき消そうとする。俺は何を期待していたんだろうな?どうせ、何れにせよいつかバレることだったじゃねぇか……。陽だまりみたいな笑顔が好きだった、暖かな柔らかい体が愛しかった、俺だけを映すガラス玉のような瞳が。「畜生!」ガン!と鋭い音を立てて机がみしみしと音を立てていた。鬼は虐げられるだけではなく、こうして嫌われるのも仕事だってか?!ふざけるのも大概にしやがれ!



こんなくそったれな世界を覆してやる。「っ……、」俺の鬼のような形相と、机を殴りつけたことによって、名前は益々怯えを含んだ瞳で俺の動向を、伺っていた。あれからご機嫌取りのように俺の言う事には逆らわなくなった。首絞めたことは、余程恐ろしかったらしかった。「おい、こっちに来い」名前を呼んで手元に置くのは簡単だった。力で服従させればいい。名前の意思なんて無視して、貪るような口付けをすれば名前は泣きながら、顔を背けようとするので俺が片手で固定して己が満足するまで求め続けた。そうだ、最初からこうしていればよかったのだ。力付くで……。



飽きてきて、目をあけて口を離せば名前の頬に一筋涙が伝っているのが見えた。腹が立ってパシン、乾いた音と共に名前の体が倒れた。急激に襲ってきた痛みに更に涙ぐみポロポロ泣きながら俺を見ている。「鬼、鬼の癖に……、」久々に反抗的な言葉を口にしたので俺は名前の前髪を掴んだ。ブチブチ髪の毛がちぎれる音がしたがそんなの気にしない。「鬼?人?何の事だか、俺たちは散々虐げられてきた。それなのに、お前は裏切る気か?」「……っ」「俺の住んでいた村は焼き払われたんだ、人間どもに。お前も人間だ、だけど、お前だけは違うと信じていた、信じていたのに!!」パシン、また名前を叩く。違う、本当はこんなことがしたいんじゃない、違う。助けてくれ。俺は名前の愛が欲しいだけなのに。

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