征服者の爪




(・セレディで両思いだけど暗い話)
夢主がメンヘラさん、自傷癖。



自傷癖の彼女を抱きしめるのは己の役目だと、ばかりにきつく抱きしめるセレディに利用されているとか知りながらも涙を零して縋りついた。オーバーロードを発現させた名前はセレディに見初められて、己の仮想国を捨ててきた。それはセレディが自分を必要としてくれるから抱きしめてくれるからだった。吐き気を催すくらいに甘ったるい台詞も、雰囲気も何もなくてただ、しょっぱい涙の味がした気がする。「大丈夫ですよ」泣かないで。例え、セレディが何を企んでいても、正体が何であっても、名前は彼について行くつもりだったし、名前の心臓はもうすでにセレディの掌中にあった。



心を奪われたと言った方が早いだろうか。甘やかしてくれて、好きな言葉をくれるセレディを好いてしまうのは仕方のない事だったのかもしれない。セレディは甘えてくる名前にクスクス笑いながら、抱きしめた。「わかっていますよ、私からは何も言えないけれども」何も、とは言ったけれど言葉をつづけた。それは直接的な表現を的確に避けただけであって名前と同じだということを示していた。「……私も、名前と同じですからね」いつも冷徹な瞳をしている、セレディの瞳が少しだけ愛しさという人間らしい感情を包含していたのに気が付いて名前は泣き顔だけじゃなくて笑んで見せた。



でも、自傷癖は直らなかったようだ。気が付けば、腕がぼろぼろで血まみれでセレディはそれを痛ましく思いながらもやめるようには言わなかった。「綺麗な腕なのに勿体ないな」というだけだった。止めてほしかったのかもしれない、少しだけ落胆をしたけれど名前はセレディの傍に居られるだけで幸せだったから、それは本当に些細なことだった。「……」セレディは最近何かを、口にするのを躊躇うようになった。それがなんなのかわからないけれど、重要なことだと何となく感じた。ただ、セレディの口から紡がれるのを待つだけだった。



「私がどんな姿だとしても、変らない愛を誓ってくれますか?それとも、私をずるいと罵りますか?」セレディは今の姿を含めて好きだと思っている、全くの別人に成ってしまったら、名前は悲しいかもしれないと思った、この頃既にセレディの情報が少しずつ漏洩していっていて、名前の耳にも届いていた。セレディのこの姿が仮初めであるということを。「……、また、抱きしめてくれますか?」いつもと変わらずに、抱きしめてくれますか?「……ええ、勿論」何度でも、私で良ければ抱きしめてあげますよ。



皆に取り囲まれていてセレディの姿が見えない。ただ、ただ、セレディを求めて伸ばした腕がぼろぼろであることを皆は知らなかった。「……名前、」しわがれた年寄りの声がした。周りの動きが止まって、名前に注がれた。「……少し待ってくれないか」もう抵抗も出来ないから安心してくれと言って、名前を呼び寄せる。周りは黙ってそれを見届ける。「許してくれ」そう言って、抱きしめた腕が異様に細くて、ああ、でもセレディで。「……はい」今、湧き上がるこの感情が何かわからなくて、混乱していた真っ最中なのに。非常なまでに短時間でそれは終わってしまい、引きはがされて、連行されていった。名前は膝を折ってただただ、セレディの名を切なげに何度も呼んで涙をはらはら零すだけだった。


title 月にユダ

あとがき
セレディは、おじいさんに成った時が衝撃的過ぎました。ので、それで行こうと思いまして暗いかわからないけどこんな感じに成りました。



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