君の場所に還る時
  



ドンドン強くなるあの人が怖いと思った。いや、強くなるのはよい事なのだ。強くなるということは生存する確率が上昇するという事。この学園では、ロストすればそれで退学一択しかない。ならば、生存確率が上がる方がいい。しかし、彼の背中が遠いのだ。アラタはドンドン強くなっていっているのに対して自分は、平行線。成長の兆しはないし、まだまだ、弱い。オーバーロードまで使えるように成っちゃって、自分は本当に彼を好きでいていいのかすらわからなくなってしまっていた。何もかもを見失っている。



一人で特訓を重ねても、無意味だと知っている。私はアラタのように特別な存在じゃないから、アラタのようにオーバーロードを発現させることは不可能に近いだろう。最近はアラタにチョコの差し入れをするのが楽しみに成っている(たまに飴ちゃんにキャラメルなんかも)。何故こうも、私とアラタは違うのだろう。このまま、ドンドン、おいて行かれて背中すらも見えなくなってしまうのかな、ああ、もう見えないんだった。……、忘れていた。私とアラタは同じ価値じゃない。天秤に私たちを掛けて御覧、平等なんかじゃないよ。天秤は、ぐらぐら揺れることも無い。明らかな差がついているのだ。



差し入れるのをやめた。私とアラタでは違いすぎる。私はアラタに近づいては成らない、そういう気持ちが勝るようになってしまった。アラタは何か俺、名前に悪いことしたのか?って不安な犬が下から見上げるような瞳をしていて、揺らいでいたけれどそんなの何もないのだから、アラタには不安がらせて悪いけれど保身に走らせてほしい。私はずるくて、意地汚い人間だから。ごめんね、ごめんね。



アラタは意外と食い下がってくる。私とアラタは違うんだよ、と言ってもきっとなっとくなんてしてくれないだろう。最初に差し入れをした私も悪いけれど、でも、逆の立場だったらどうだろう?別々の人間だから同じ行動はとらない可能性もあるかもしれないけれど、アラタだって、負い目を感じたりするはずだ。それとも、グイグイと自分の本能に従って、関係を保ち続けるだろうか?だとしたらアラタは強い人間だ、私なんかと違って。やっぱり、アラタと私は違う。皆違うのなんて当たり前だけど、そうじゃない。



アラタに追い詰められた。物理的な意味で。壁を背に、アラタの不安を孕んだ瞳から目を背けていた。アラタは「どうして、俺から離れていこうとするんだよ」って本音を零した。「アラタと私があまりにも違いすぎるから」「そんなの理由に成らない、だって、俺は名前の事が**だから」アラタらしくない単語が聞こえた気がしたけれど、私の耳が聞くのを、脳が理解するのを拒絶していて、わからなかった。


title カカリア

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