許されるなら僕は愛されたい
  



恋なんて、するもんじゃあないよ。ただただ、辛いばかりだ。後悔や、痛みを生んでは私を突き刺して殺しにかかってくる厄介なもんだ。何故、人は恋をするのだろう。一時期私は浮かれた様に恋に恋をしていた。だって、周りが好きな男子が出来た!等と浮かれていたのだから、私だけ恋をしていないなどと言えばたちまち蚊帳の外に成ってしまう。それを恐れたのだ。私は恋に恋をした、恋と言うものを知らないままに失恋して泣く友達を慰め、またある時は上手くいった友達に祝福の言葉を送った。



だが、そんなどうしようもない私も恋に落ちる日がやってくる。それは唐突に私の心臓をノックをしてやってきた。勿論、身構えていない私は面食らってしまい、ああ、ノックダウンしてしまったのだ。恋をした相手は誰だと思う?あのバイオレットデビルのムラクだ。もう、チャンスなんてあるわけもない。私はムラクを見ている、なんで好きに成ったかきっかけをよく覚えている。セカンドワールドでの戦闘の時に背後を取られた時に、ムラクがその逆にその敵の背を取り、敵を逆にロストさせてくれたのだ。あのままだったら、間違いなく私はロストさせられていただろう。



ムラクにはお礼を言ったけど、素っ気なかった。そりゃそうだろう。私は足を引っ張っただけのただの邪魔なロシウスの生徒の一人に過ぎやしないのだから、覚えてすらいないだろう。だけど、あれから、心の中に住まうムラクは堂々と私の中に居座って寛いじゃったりしている。毎日のように考えているから、もはや溶け込んでしまっている。この気持ちは言えない、口にしたところで煩わしそうな顔をされて切り捨てられるだけだ。ムラクという男は見ていたがそういう男なのだ。……、せめて、もう少し強ければムラクの目にもとまり、役にも立てたのだろうか?



あれから、自主練習を重ねているけれどあまり上達の兆しが見えない。見かねたのだろう、ムラクが私の自主練習を手伝ってくれた。それがよくない事だと知らずに。私が強くなりたい理由はムラクに近づきたいからなのに。心臓にも悪い、もうてっきり関わったり話したりもできないものだと思っていたからこそ、余計に。動きが鈍ってしまった、ああ、練習の成果なんて出るわけも無いよ。だって、ムラクが傍にいて、ムラクと同じ時間、空気を吸っているんだ。それで正常で居られるわけがない。「お前の実力はこんなものではないだろう?普段の自主練はもっとキレがあった」……ムラクに見て貰っていたんだっていう事実に浮かれてしまいそうだった。溶かされていく。



こんな邪な事を言えるはずもない、私は胸の奥にこっそりと作った引き出しにそっと仕舞い込んだ。「ムラクが強すぎるんだよ」「……思い違いか。うまくなったなと思ったのだが」……ムラクに失望されてしまった。私は、ムラクの為に強く成りたかったのに、これでは本末転倒だ。……セカンドワールド内で成果を見せるしかない。



実践だと敵も本気で襲い掛かってくるのだから、私の思惑通りに事が運ぶわけも無い。右腕が動かなくなった自分のLBXを見て私は溜息をついた。ロストは免れた、何とか仲間の助成もあって、エスケープしたし。……だけどこのざまだ、もうムラクはきっと話しかけても来ないだろう、何の期待も出来ない雑魚兵にすぎやしないのだから。恋なんて、するもんじゃあないよ。ただ、辛いだけで、幸せなんて一握りだ。私はその一握りじゃなくて大多数の不幸な人に成ってしまうの、溢れてしまうの。破損した機体に涙を零して、私はムラクの名を呟いた。ああ、もう一度チャンスをください。


title Mr.RUSSO

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