昨日までの僕にアディオス
  



一緒に登校したかったのは事実だ、だけど、他の人たちが何も言わないのか不安でならなかった。失礼で若しかしたら間違った認識に成ってしまうのかもしれないが、ミハイルたちはムラクの取り巻きみたいな感じで四人一組みたいなイメージなのだ。だから、私なんかと二人きりで登校して本当にいいのか?と言った意味で私より幾分か背丈のある彼を見上げた。「ムラク達にはちゃんと今日は名前と登校すると言っておいた。たまにはこういう日があってもいいと思わないか?」僕らはほら、懇意な関係じゃないか。そう悪戯に笑って歯を見せた。



「いやいや、それでもだよ。私にはこの光景がなんだか新鮮な物に見えるんだよね。ミハイルってムラクムラクと言っているイメージばっかりで、絶対に私と二人きりで登校なんてしないと思っていたの」これはきっと偏見とかじゃなくて割とガチである。ことあるごとに、ムラクと言っているからきっとミハイルはムラクを本気で慕っているのだ。少し度が過ぎていると思う時もあるけれど。まあ、悪い事ではないのだろう多分。「中々に手厳しいな、胸に刺さるよ」そんなに強く言った覚えはないし、事実だと思うのだが。ムラク、絶対に超えられない壁、私みたいな。そんな序列が出来ている気がするのだ。だからこそ、その序列が引っ繰り返された今日、猜疑心と嬉しい気持ちが混ざり合うのだ。



「…………二人で登校したの初めてだよね」「悪かったと思っている」ミハイルがしゅんとしょげた様に、眉を下げて私から目を背けた。余程、後ろめたかったのだろう。別に私はバネッサやカゲト……それから、ムラクが居ても全く気にしないし、寧ろそれが日常に溶け込んでいるので、逆に居てくれた方がいいし、このむず痒いような微妙な空気も緩和されるので気が楽だったりする。ミハイルは嫌いじゃない、だけど、二人きりだと気恥ずかしさや緊張等でまともな会話が中々に成りたたないのだ。「僕と二人きりで登校はそんなに嫌だったか?」遂に居た堪れなくなったのだろう、ネガティブな発言がミハイルの口から飛んできた。「ああ、違う、そんなんじゃないの、嬉しかった」その後に、でも、だとかだって、とかついてしまうけれど。嬉しかった気持ちには変わりがない。



「……緊張するっていうか、どうしたらいいかわからないというか」「なんだ」文字にしてしまうと呆れた意味に聞こえたり、冷たく見えるのだが、ニュアンスが全く異なるもので安心したようなものだった。どうしても名前と二人きりで登校するのは、ハードルが高くて、今日誘うまでどれだけ時間を要したか、ムラク達に協力してもらっていたかをポツリポツリと話していって最後に「僕と同じか」と、安心しきったように破顔させた。


title Mr.RUSSO

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