終焉の日に愛を知りました
  



「!ロストしたんじゃなかったのか?!」そう言うと、あいつが言った。そんなわけあるかと言わんばかりに悪戯な笑みで。耳元から聞こえてくるような、女の声にくらくらしながらも、その笑みと言葉を堪能する。もう何日も聞いていないような気がしたのだ(若しくは数か月、俺には長い時間に感じられる)。「そんなわけないでしょう」くすくす、くす。「じゃあ、なんで俺に逢いに来てくれなかったんだよ!」寂しかったんだぜ、俺。俺たち一緒にセカンドワールドを守ろうって約束したじゃないか。「そうだったねぇ」



約束を忘れて違えようなんて、お前らしくないぞ!って言うとへらへらしながら、ごめんごめん、今度スワローでパフェでもおごってあげるから怒らないでアラタと俺を宥めすかした。そんなのいい!お前がいてくれればそれで!と俺が何故か泣きそうになりながら言う。唇が勝手に動いて言葉を紡ぐ、それから、そんな俺を見かねたのか暖かなぬくもりといつもの香りを風に乗せて俺を抱きしめてくれた。「ごめんね」口癖のようにごめんねと呟いて、腕に込める力を強めた。



「俺寂しかったんだぜ、ずっと、ずっと逢えなかったし」「そっか、アラタに寂しい思いをさせたんだね、でも大丈夫。私の機体はロストしたんじゃなくて、ちょっと、損傷が激しかっただけ、直すのに時間かかっただけだよ」だから、ごめんね、ごめんね。もう寂しい思いなんて絶対にこれっぽっちもさせないから、アラタの隣にずーっと望んでくれるならいてあげるから。その言葉が聖母を彷彿させるようで俺は安心しきったように体を預けた。もうきっと、何処にもいかないんだって、あれは、ジジジ、映像がぶれはじめる。あれは、悪い、夢だったんだって。ジジ、ジ。(ゼロとイチとそれから、消えていく消えていく、)行かないでくれと叫んで、抱きしめてくれていたぶれる映像が消えていくのを俺は涙を流して縋ろうとした。



「うわあ!」「?!どうしたんだ」大声を出したことで吃驚したヒカルが俺を少なからず心配そうに見た。「ヒカル……名前が!」それから、名前の名前を聞くと、ああ、またかと納得したように数度、頷いた。「帰ってくる夢か、それともロストしていなかったという夢か?どんなに現実から目をそむけようと」あいつは、ロストしたんだ。思い出せ、数日前にバンデットの手によって。そうこちらが現実だ、



「アラタ、お別れだね。あはは、情けないなぁ、あんなにやられるもんかと意気込んでいたのに、仮想国じゃなくてバンデットなんかにやられちゃうなんてねぇ」名前の顔は笑い顔を張り付けているというのに笑ってなどいなかった、その渇いた笑いは心からの物なんかじゃなかった。俺の好きな笑顔は、そんなものなんかじゃないって多くの生徒だった人たちが乗り込んでいく船に、名前もまた乗り込んだ。何処か足取りは重くて、その背は小さく感じられた。名前は女の子で、こんなに小さかったんだと、決して名前は拙劣ではなかった、だけど、バンデットは卑劣で一枚上手だっただけ。あんなのにロストさせられて退学だなんて俺は納得が出来なかった。

あてどなく彷徨している気持ちは、まさしく。

俺は名前が居なくなってから度々、夢を見るようになった。それまでは然程夢など見なかったし、数十分もすれば忘れてしまうような支離滅裂な物であったのに。……それは夜毎に繰り返される、都合のいい夢だ。名前はロストなんかしていなくて、ただ損傷が激しくて少しだけ戦線から離脱しているだけ、本当は退学なんかしていない、帰ってくる。それは姿を時たま帰るけど、根本は同じである。名前はまだ俺の隣にいる、と。



俺は名前が好きだったのである、失われて初めて気が付いたのだ。人を慈しむなど初めてであった。だからこそ、気づけなかったのだ。名前は隣にいるのが当たり前すぎて、近くにいすぎて、そう、自分でつけた傷の様に段々と薄れて、肌に同化して。わからなくなっていたのだ。「ああ、」俺はどうして。「バイバイ、アラタ」


title Mr.RUSSO

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