ラストイリガリティー
  



本当は知っていたのだ、セレディ先生にとって都合のいい駒だという事を。私は、自分の意思でワールドセイバーに入って、皆を裏切った。若しかしたらすべてが変えられるかもしれない。なんていうのは、建前で本当はセレディ先生に惚れこんでしまったからだ。セレディ先生はいつもクスクス笑いながら、私たちと変わらぬ容貌で私の頬や頭を撫でてくれる。それはきっと、私の心をスキャナーの様に読み取っているからだ。



「名前はいい子ですね」いい子いい子、そうやって褒めて私を歓迎してくれる。私の心の隙間を埋めてくれるように、何度も何度も同じようにしてくれる。きっと手段は選ばないのだ。きっと、私の様にセレディ先生を想う人が出てきたならば同じようにいい子いい子ってやって、私よりも優秀だったならば「好きですよ」なんて耳元でささやいて嫣然と微笑して見せるのだ(勿論、それは心からではないだろう、だが、言うのだ。彼は目的の為ならば手段は選ばないのだ、例え思っていなくても使えると判断したら言うし、使えないと判断したら容赦なく切り捨てる、彼はそんな男だ)。



泣きたくなるような匂いがする。それは懐かしさと、悲哀を帯びている。「良い子ですね、」声が近くで薄らぼんやりと聞こえるのだが、どうもそこには心が入っていないような気がしてどうしても、泣きたくなってしまうのだ。泣いてしまったら悪い子だと私に言うだろうか?私はセレディ先生の前ではいい子ちゃんで居たいのだ、ああ、心が痛い、疼痛がして、眩暈がして死んでしまいそうだ。そんな錯覚を起こすほどに私はセレディ先生が好きなのだ、私よりも長い間ずっとずっと世界を見つめてきたセレディ先生が好きなのだ。



「好きですよ、だから、泣かないでください、大丈夫ですよ。いい子ですね、貴女を捨てたりなんかしませんよ」セレディ先生はそういっていつもみたいに笑ってくれる。それはまだ、私が使い物に成ると判断されている証拠だ。なんで私がこう悲観的に思うのかそれは一つの理由がある、キョウジ君だ。彼は切り捨てられた、自らセレディ先生の手によって、切り捨てられたのだ。オーバーロードも完全じゃないと。ただの傭兵に過ぎやしないと。あれから、キョウジ君は姿を眩ませた、一度も見ていない、若しかしたらもうこの島から去って行ったのかもしれない。人知れずに。



「セレディ先生、捨てないでください、私頑張りますから。全力で。セレディ先生の役に立ちますから、だから」「ええ、わかっていますよ、」貴女が好いていることくらいお見通しです。



*容赦なく捨てられそう。


title 箱庭

戻る