透き通るまであと少し




(悲恋。夢主←小喬)


小喬がこの土地を離れるとき、それは周瑜に見初められた時だった。彼女は大層美しく、友達である名前等霞んでしまう。そんなことはどうでもよかった。小喬が何度説得しても「一緒には行かない」という回答が導き出されているのだ。小喬は名前が大好きだった。それが恋愛としてか、それとも友愛としてなのかはさておいてだ。それを手元におけないのが悔しくて悔しくて堪らなかった。「小喬、あのね、貴女は周瑜様に嫁ぐのよ。私は此処に残らないと。子供みたいに駄々をこねないで頂戴」ぴしゃり。そう言った瞬間、小喬の美しい双眸からぽろぽろと涙があふれ出てきた。「どうして」



「どうして、わかってくれないの?!名前の馬鹿〜!」ぐすぐす、鼻水を啜って、零れ落ちる涙をごしごしと化粧が落ちるのも気にせず着物の裾で拭った。そして、踵を返し走り出した。パタパタ足音を響かせて出て行った小喬に溜息を吐きながら竹簡に筆を滑らせた。名前とはそれから気まずくて小喬は話せなかった。無理やり此処からつれ出すことも出来たろう。だが、それはしなかった。益々嫌われてしまうのが怖かったのだ。そして、訪れる、この土地を離れる日。名前も見送りに来ていた。馬に跨る小喬に嫣然と微笑んで。「おめでとう、またね」と言った。「ねぇ、どうしても、駄目なの?」「うん、ごめんね」「周瑜様もいいって言っていたのに」別れを惜しんでいたら遂にやってきた時間。「行くぞ」馬が地を蹴り、緩やかに走り出していった。



あれから月日は流れた。だが、小喬が名前の事を考えない日は無かった。周瑜との時間の最中ですら思い出す始末だった。それ程までに彼女の存在は大きかったのだ。そんな中届いた。書物があった。それに小喬が目を通した瞬間双眸から涙が零れ落ち、目は零れ落ちんばかりに見開かれていた。「う、そ」『小喬へ、私はこの地で結婚することに成りました。この土地に戻ってくるときは私の子供と遊んでやってください。どうかお元気で』締めくくりには名前の名が書かれていた。簡潔でされど要点は押さえている。小喬はワーワー泣きながら周瑜に縋りついた。



「名前が結婚しちゃったあ!」「当たり前だろう。彼女も女性なんだ」女、そうだった。「周瑜様、あたし、裏切る事言うかも」「ああ」「名前がどうしようもなく好きだったんだと思う。だから、名前はそれを見抜いていて周瑜様と円滑に生活出来るように離れたんだと思うの」それは憶測でしかなかったがおおよそ、名前が想定した範疇の事であった。周瑜は目を細めて寂しげに笑った。「そうか、君は名前が好きなんだな」「うん、でも明日からきっと周瑜様だけを見るから、今日だけは許して……」そう言って頽れた小喬を優しく抱いて「ああ」とだけ答えた。

Title 約30の嘘


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