あなたを愛していいですか




(トリップ)

「暑いですねぇ」この時代エアコンも扇風機すらもないというので、夏侯淵様も薄手の着物を着ていて「いやぁ〜、この時期は暑くて嫌いだわぁ〜いやいや、参るわ」と珍しく弱気な台詞を吐きながらも私の隣に座っていた。といっても、夏侯淵さんが離れても私が近くに寄ってしまうきらいがあるので、夏侯淵さんは諦めているのだと思うけれども。パタパタと着物を仰いでいるので、私が離れて「ちょっと待っていてくださいね」と言った。向かった先は井戸だった。井戸水は冷たい。それに布を浸して絞った。それを夏侯淵さんの元に持って行って、首にかけた。「うわぁ?!な、なんだあ?名前かぁ」「井戸水で冷やしてきました。どうです?冷たいでしょう?」えへんと胸を張ると、ああ、有難うな。と言って、頭を撫で付けられた。わしゃわしゃーと犬を撫でるみたいに乱暴な手つきだし、骨ばっていて武人の手なのに暖かくて私は大好きだった。



「わわ、髪の毛が乱れてしまいます!」「いいじゃねぇか、ちょっとくらいよ。減るもんじゃないだろ〜?そうだ。折角だ、葡萄でも食べようぜ」きっと曹丕様に頼み込んで分けて貰ったのだろう。あの曹丕様がそんなわけてくれるとは思えないけれど、夏侯淵様は殿(曹操様)と仲が良いし不思議ではないだろう。用意された葡萄を一粒口に入れる。「高価な物だから味わって食えよ」「ふぁい」現代の葡萄とは違いあまり甘い方ではなかったけれど、この間、曹丕様から私は要らんから食えと言われて差し出されたすっぱすぎる蜜柑よりはだいぶマシだった。口元が自然とほころんでいたのだろう。夏侯淵様が嬉しそうに、目を細めて私を見ていた。「うまいか?」「はい、夏侯淵様は食べないんですか?美味しいですよ」「あー、いいって、いいって。俺はお前の為に貰ってきただけだからな」そういうさりげない所が優しくて大好きなのだ。



葡萄を一粒残さず完食したころには日が傾いて少し涼しく成っていた。うだるような夏の暑さは夜に成ると一変すると言っても真夏なので日が傾いても涼しいとまでは言えなかった。私は夏侯淵様の隣に腰かける。「暑いですねぇ」今日の昼間の繰り言を、夏侯淵様は笑ってそうだなって言った。「お前の時代にはえあこん?せんぷうき?っていうのがあるんだろう?涼しいのか?」「そりゃぁもう、井戸水の冷たさには負けますけど涼しいですよ」パタパタまた、夏侯淵様が着物で扇いでいる。「うちわがあればいいのに、せめて」「ははっ、名前の口からは色々な単語が出てきて面白いな」



「それにしても暑いですねぇ」「だな」そう言っても離れないのはきっと、大好きだからだ。優しくて、気さくで最初にこの世界に飛ばされた私を保護してくれた、夏侯淵様が。この想いは、許されないのかもしれない。だけど、暑い暑いと言いながらも密着して体温を共有し合っている今、夏侯淵様も少しは意識していてくれたらいいなぁ、なんて思った。

Title 箱庭


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