誓約者の剣




(悲恋)


私は小さい頃誰とも打ち解けられなかった。厳しい母に、兄上達のこと。そのせいでいつも一人ぼっちだった。誇れるのは自分の英才教育という母に施された物だけで、自分の力ではあるけれど自ら掴み取った物ではないと、何処か不安だった。そんな時だった、奴と出会ったのは。名は名前。異国の匂いがする、彼女は少し不器用に笑って見せて「ねぇ、君、一人?」と絵を描いていた私に問い掛けた。「まぁな」「ふふ、墨ついているよ。とってあげるね」そう言って、彼女は乱暴に手ぬぐいで顔を拭った。墨が取れたのを確認した後、やっぱり破顔して「私名前、最近此処に越してきたの」「ふぅん、それで、私に何の用だ」「友達に成ろうよ」筆をおく私の両手を握って「ほら、輪が出来た。私と君は」「鍾士季だ」「そ!士季は友達だよ」照れ臭くもあったし、女の友達なんて、って思ったけれど奴の存在はこれからどんどん膨れ上がっていくことを当時の私は知らなかった。



奴は、女の友達と同等に接した。英才教育?一人ぼっちそんなの関係ないよと輪に加えようとしてくれたが私はどうも人と接するのが……というより、相手が私と接するうちに何処かへ行ってしまうのだ。いつもそうだ。だから、こいつもそうだろうと思っていたのに。「おーい、士季ぃ。なんで何処かへ行っちゃうの?」「別にいいだろう?私は勉強をしなければいけない」「ふぅーん、士季は将来偉くなりそうだね。これ、食べて肉まんあげる!」そう言って買ってきたばかりなのだろうほかほかのそれを私に手渡した。私はぶっきらぼうにつっけんどんに「ああ、そう。貰っておくよ」とだけ言った。偉く……か、私は将来描く未来に名前は居るのだろうか?



「士季、私ね戦に出ることにしたの」成人した、私たちは別々の道を歩み始めていた。別々と言っても傍には居るけれど、目指した道が違った。名前は武人に成ったのだ。馬鹿にでかい剣を携えていて、それが獲物か……と呆れたが昔から少し滅茶苦茶な所があったので大して気にはしなかった。最近可笑しなことがある。名前が前にもまして女らしくなった。微妙な変化ですら私は見ぬけるように成っていた。英才の誉れ高き私ならば出来て当然だがな。「士季、士季は恋、したことある?」そこで飲んでいたお茶をブッと吹き出しそうに成った。寸の所でそれは口の中でとどまり嚥下する。ゴクリと不自然に喉仏が動く。



「お前は、あるのか、名前」「あー、いやいや、えーと、ま、まぁ」疼痛がした。眩暈がした。全身が冬の冷たい風に当たられているような錯覚を覚えた。すっかりと冷えた指先で湯呑みを触ると、じんわりと温かみを感じられた。「誰なんだ」自分から聞いておいて情けない事に相手の名前を忘れてしまった。私ではなかったことは確かであるが。それから、何となく気まずい雰囲気を纏った私と変わらない名前が居た。「士季!」「なんだ!あいつの所へ行けばいいだろう!?」突き放す様に出た言葉には棘があってしゅんとうなだれた名前の姿が見えた。「だって、士季はお友達だから。あの日から……私の、」「お友達だって?馬鹿馬鹿しい。お前ひとりがそう思っていただけに過ぎない、私は」私は?



「お前を女として見ている。言っておくが私は英才教育を受けた完璧な人間だからな女は寄ってくるからさっさとしないとお前の事等見向きも」「士季、ごめんね、」その言葉が意味していたのは終焉だった。友達以上には見られないと言ったのだ。幼い頃私を支えてくれた名前が初めて私を酷く裏切った瞬間だった。

Title 箱庭


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