誰がために花は咲く




結婚するくらいならば武人として一花咲かして死んでやる方が数倍もいいと思う。そう思い生きてきた私に、見合いの話が舞い込んできたのは数日前の事だった。もういい年なのだから、結婚の一つや二つ、しなさいとの両親の粋な計らいだった。私からすれば迷惑極まりなく。断りの文を認めていた。大変に申し訳ないのですが私は武人として死にたいので、お断りさせていただきます。的な事を認めてそれを相手に送りつけた。因みに相手の名前は見たことあるし知っているし同僚であった為非常に気まずいというか、こんな女貰って何する気なんだろうという気持ちに成った。「名前殿!せ、拙者が嫌いなのか?!」文を認め女官に送らせて直ぐだった。関平が何処か涙目に成りながらもおいおい、冗談だろうと思いたかった。



「いやいや、関平殿も武人ならばお分かりいただけるかと。私は武人として死にたい。家で夫の帰りを待つような女ではないという事ですよ」「せ、拙者は名前殿を……その、お慕いしている……今回親から届いた文も拙者が直々に頼んだのだ!」なんて言う事だ。色々な物をすっ飛ばして関平と言う男は私の親にそんな事を頼んだのか。ああ、きっと親は関羽様の御子息に当たる関平殿を見てにやけ顔で了承したのだろう。全く、我が親ながら呆れてしまう。関羽様の御子息だとしても、娘の気持ちは考えないのか。その日から私と関平殿の攻防が始まったのだった。



「名前殿!饅頭を食べないか?」「ああ、貰いましょう。甘味は好きでしてね」関平殿を邪険にすることなく、饅頭を摘まみ、口に運び咀嚼した。甘い味が広がり、先程までしていた稽古の疲れも取れるような気がした。「ああ、そうそう。こういうあからさまな点数稼ぎしても無駄ですからね。私は武人として行きますから。夫など生涯ひつようありません」うぐっと言葉を痞えて関平殿が目を白黒とさせ泳がせた。やはり点数稼ぎだったらしい。なんて、駆け引きの苦手な男なのだろうと少し哀れんでしまった。それから、饅頭ごちそうさまでした。と言って、私は歩き出した。もう今日は疲れたから休もうと部屋に行こうとすれば関平殿に声をかけられた。「待ってくれ!これ……全部持って行ってくれ。拙者は甘味があまり好きでは無くてだな……」「何をおっしゃいますか。貴方は甘味が好きでしょう。よく星彩殿と私とで甘味を試食したじゃないですか」しまったという顔をした関平殿を置いてゆっくり歩んでいく。全く面倒くさい男だと思った。絶対に結婚なんてしてやるものか。



翌日、また、関平殿に話しかけられた。「拙者と手合せしないか?」「……、まぁ、それならば」手合せは好きだ。お互いに大振りの獲物なので迫力があるが、どうもお互い隙が出来る。ブン、先に先陣を切ってきたのは関平殿だった、私は体を捻ってそれを回避する、そして、そのまま蹴りを御見舞いする。「うぐっ!?」「関平殿、お覚悟!」空を切る音が爽快だった。倒れ込んだ関平殿に最後の一撃を食らわせるべくして動いた、関平殿から一本取ると関平殿の上から退いた。「拙者が未熟なばかりに!女人の名前殿に負けるとは……」「!関平殿、そのような事を……!許しませんよ」女人?ふざけるな。私は武人だ。ぷんすか怒りながら出て行けば済まない!本当にすまかった、許してくれとの声が後ろから突き刺さったが全部無視した。



翌日、部屋から出ると桃が籠の中に沢山入っていた。丁寧に関平殿が昨日の事を許してほしいと沢山美味しい物をとっておりましたと女官が言っていた。物で許すなんて思うなよ。と思いながらも桃を齧った。甘い。不意に影が差した。何だろうと思って見上げれば長身の関羽様が口髭を撫で付けながら私を見下ろしていた。目は優しい物だったが厳かにも思えて私は慌てて桃を置いて一礼した。「見っとも無い所を見せてしまい申し訳ありません」「よい、それよりも、名前殿は関平が嫌いなのか?」「は、嫌いでも好きでもありません。ただ、結婚したくないだけで」素直に婚儀を結ぶのが嫌なのだと伝えるとふむと相槌を打った。「成る程な。関平が昨日落ち込んでいて、何があったか聞いたところお主に負けた上に怒らせたと聞いてな」



「は、はあ、女人だとか言うもので。私は武人として一花咲かせて散りたいのです。結婚は墓場何ですよ。私にとって」関羽様は考え込むような仕草を見せた。やがて、関羽様が口を開いた。「関平が隣に居て幸せだと思える女性は貴女だけなのだ。どうか、拙者からも頼む」そう言って頭を下げようとするものなので慌ててあげさせて「わかりました。その代わり私も戦場に出させてください」



婚儀は盛大に終わった。張飛様も酒をじゃんじゃん飲んで行っていってまるで胃に穴でも開いているんじゃないかってくらい飲みこまれていくので何処に蓄積されていっているのか不思議であった。関平殿が寄り添う。「名前殿、本当に良かったのか?父上に何か言われたからだろう?」「まぁ、そうですね。でも……関平殿の事幸せにしてあげますよ」「可笑しなことを言う方だ。拙者には名前殿さえ居れば幸せなのに」全く、本当に救えないくらいに馬鹿でお優しい方だ。両親もきっと今頃喜んでいるであろうことは想像に容易い。まぁ、仕方のない事だ。私が決めたことなのだから。

Title 箱庭


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