翔けるスピカ




人は人を傷つけて生きている。そうしなきゃ生きていけない、自己防衛本能の狭間。そう気付いたとき、私はもう誰にも近づかないように生きて行こう、適度な距離で生きて行こうと決めたのだった。だが、周りがそれに気づいているかそうではないかと聞かれると否である。もう人を傷つけたくない、頭を抱えて蹲る、炎に焼かれ爛れていくような心地に成る。関興という男は私に近づいてくる。純然たる瞳で私を見つめてくる、その瞳が大嫌いだった。何もわかっていないくせに、私の何がわかるというのだ。「名前殿、外、良い天気。遠乗り行かない?」「美味しい甘味が手に入った。食べない?一緒に」誘ってくる内容は一々違うけれどどれも私を誘うものばかりだった。



「もう近づかないでください」腐敗している。この世は、人は人を傷つけ殺す事しか出来ない。戦に出ている関興殿だってわかっているはずなのに。なんでその瞳は穢れないのだろう。関興殿はキョトンとした瞳で、私が忌避しているにも関わらずに、「何で?」と尋ねてきた。理由を喋ったところでこの男は理解しようとしないだろう。否、わからないだろう。「なんで、人を、私を、遠ざけるの?」瞬間体が強張った。この男は、見ていないようで見ている。深淵は見ていない物の、表面の忌避、私が人を避けているのをわかっていたのだ。私は喉がカラカラに砂でも食ったかのような声で「そんなわけないじゃないですか」と言った。



嘘つき、と関興殿の瞳が真っ直ぐに射抜いた。「関興殿にはわからないことですよ」「そんなの、言われなければ、わからない」関興殿は近い。あまりにも距離が近すぎる。このままではまた。私は人を傷つけてしまう。うまく息が出来ない、当たり前の事が出来なくなっていた。「人は。人を傷つける事しか出来ません。私とてそれは同じこと、あまりに近いと関興殿を傷つけてしまう」私は二酸化炭素ばかりのよどんだ空気と鈍色の空を眺めながら関興殿に許しを請うように喋った。関興殿はクスリと笑った。



「私は今の所、傷ついていない。それに」人は人を傷つけ、時に殺してしまうかもしれない。だけど、人は人を慈しみ愛し合うことが出来る。これは動物には出来ない事。私たち、人間が許された、事。そういってはにかんだ。私の考えとは真逆の燦々とした太陽の様な考えの持ち主だった。「私は。名前殿が好きだ……この感情を抑える術を知らない」「その為にわざわざ毎日誘ってくださっていたんですか?」「うん、」そう言われた瞬間、氷解していくように凪いで行った。

Title 彗星


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