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何故だか孫策の心は晴れなかった。明日、いよいよ婚儀が行われる。正妻に成るは大喬という女性と言うには幼い顔立ちをした、女性で名前もこの人にならば孫策を幸せに導いてくれるだろうと言う何の根拠も無い自信があった。今日はいよいよ、独身生活に終止符を打つ、孫策と二人飲み明かしていた。月は煌々と照らし良い月見酒となったが、肴と成る種が、明日行われる婚儀の話ばかりで少々ウンザリとしていた。元来、孫策と言う男は体を動かすのが大好きな男で、座って話して居るばかりでは、物足りなさを覚えていた。酒をこうして二人で飲みかわすくらいならば、体を動かし一緒に鍛錬へとしゃれ込みたいくらいであった。それ程までに、体を動かすことをこよなく愛していた。



「いやぁ、めでたいね。周瑜殿と孫策殿、二人揃って姉妹の美人さんと婚儀を結ぶなんてね」顔を赤らめた、名前はそろそろ呂律が怪しくなってきていた。話す内容も幾度話したかわからない。「めでたい、めでたい……くぅ、立派に成っちゃって!皆そうして結婚していくんだから、私が行き遅れに成っちゃいますよ!」孫策とこうして対等に話せるのは周瑜と名前くらいだった。最初は勿論敬語口調に、孫策様と言っていたが、堅苦しいのが大嫌いな孫策、それはむずがゆいのでやめてくれと言ってやめさせた。それからは砕けて行って最終的には孫策殿と呼び、周瑜とも交流を深めていった。それになんとなく、俺の護衛なのになあ、なんて薄らぼんやり思っていたのだった。



「さっきからおんなじことしか言わねェなぁ。酔いがまわって来たかぁ?俺は、夫婦に成ってもお前を護衛から外したりしねぇ。今日が最後じゃねぇんだからな?」「はぁ、そうですか。てっきり、女の私は外されるのかと。大喬様、嫌がりませんかね」「そんな、心のせめぇ女じゃねぇよ」コツン、握り拳を作って額に当てた。「いだっ」最初は、名前の存在そのものが嫌だった。何せ、女の護衛等珍しいうえに、使えるのか?という猜疑心があったからだった。だが、戦っているうちに気が付かされた。成る程、名前という女は強い、女だからと言って差別し、退かしたところでそこいらの男よりも腕が立つのでこれは勿体ない。神という存在が居たならば名前を女の性へ産み落としたのは間違いだったと言いたいくらいだった。クイッ、喉を鳴らす。喉仏が上下に動いてそれを嚥下し、プァと酒臭い息を吐き出す。「それにお前だったら、その内いい男が貰ってくれるさ」「だといいのですがね」名前は落ち込んでいるようにも見えた。



いよいよ待ちに待っていた婚儀の日。名前は目を細め、敵を警戒しながら列に参列していた。その手には物騒にも鞘に収まった剣が携えられていて、緊張感を生んだ。だが、それも、二人の婚儀を見て少し緩やかな表情に変わった。孫策が大きく民衆に向かって手を振る。大喬は控えめに隠れるようにしてその美貌を魅せた。「ほう、噂に違わぬ美人だな……」名前が呟いた。孫策が名前を見つけると「おーい!名前!」と大きく手を振って気をこっちへ向けた。「孫策殿!今日は警護に当たっております!」一度儀礼的な礼をして、お幸せに成ってくだされ!と声をかけた。孫策はその時に胸が痞えたかのような違和感を覚えた。



「いいのですか」「なぁにがだよ」孫策に連れられやってきた鍛錬所で剣を合わせていた。キィン、と鍔迫り合いに成る。「大喬様を放っておかれて」「……、」居心地の悪そうな目で名前を見つめ、そのまま押しやった。「うわっ?!」ペタンと尻餅をついて、剣を落としてしまった。「俺の勝ちだな!そうやって、下らねェことに頭使ってっから負けるんだ」「下らなく等!」大喬が実は此処に居るのを名前は知っていた。先程からずっと影から見ている。だから、居心地も悪かったし、負けたのはそのせいだとすら思っていた。「おい、もう一戦するぞ。体動かすのはやっぱ楽しくて仕方ねぇぜ!」



それから、いくつかの月日を跨いだが、相変わらずだった。痞えたような感覚の意味を知りもせずに、接していたが、いよいよ名前の方が我慢の限界だった。「いい加減にしてくだされ!大喬様のお気持ち考えたことありますか?!鍛錬の相手は私でなくともいくらでも居るでしょう!」そう言って、駈け出した。孫策はまた、胸が痛んだ。何故こんなに胸が痛むのだろうとわからず、追いかけた。「待てよ!!」足は歩幅の大きい孫策と名前では歴然としていた。すぐに捕まった。「離してくだされ!」「何で逃げるんだよ!俺たちは!俺たちは……」友達?親友?配下?色々な言葉が廻ったけれどどれも当て嵌まらなくて孫策は混乱した。



「……っ、」自分たちの関係を考えた時最も正しい答えは恐らく配下であり、親友だ。だが、それだけじゃ満足いかない自分に気が付いた。そして、それが*だという事にも。許されない、もう何もかもが遅すぎた。


Title 約30の嘘


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