明日の世界は何色だろう




蜀に寝返り、馬岱殿の元へ向かった際に酷く濁った瞳で底抜けの明るさであいさつをされたのを覚えている。「やぁ、君が、名前だね。待っていたよ。まさか、君が曹魏の……曹丕殿の元から来てくれるなんて思っていなかったから本当に嬉しいよ!」はい、と言って差し出された手を握りしめると私とは違って一回りほど大きな手に握りしめられぶんぶんと縦に振られた。握手握手!ってやっぱり何処か私の事を信用していないような、そんな雰囲気が感じられた。まあ。当たり前か、曹丕の傍で武将をやっていた私が行き成り蜀の馬岱殿のお誘いに乗って来たのだから、疑われて当然。これは戦場で武功を立てて、信用して貰うしかない。



魏との対決の日。私は、自身の剣を研ぎ澄ましながら、深く息を吐いて深呼吸を繰り返していた。そして繰り言の様に「曹丕め、」と呟いた。その日、蜀での初陣。馬岱殿の近くで戦いながら元同僚に遭遇してしまった。「裏切ったのか!名前!」「当たり前だろう!」「この、恩知らずめ!曹丕様に拾ってもらった恩を忘れたのか!」「ふん!」そう鼻で笑って私は剣を横に振った。同僚の腕に接触して鮮血がそこから噴き出した。「ぎゃぁ!」という情けない悲鳴に追い打ちをかける様に足を狙う。「私が裏切者か。ふん、何も知らない癖に」そう言って首を落とした。馬岱殿はまだ疑っているのだろう。同僚を切り血塗れに成った私に「凄いなぁ!やっぱり俺の見たとおりだ!名前は強いよ!」と褒めてくださった。



曹丕とは逢えずに、魏軍を追い返すので終わってしまった戦。これでは馬岱殿に信用してもらえるのには遠そうだ。と思いつつ、大剣を磨く。ギラリと光る鋭利なそれに自身の顔が映りこむ。忌々しい顔だ。ズタズタにしてしまいたい程に。「名前〜!大活躍だったね!殿もお喜びだよ!」「馬岱殿はお喜びに成ってくださらないのですか?」馬岱殿の表情筋が固まったかのように張り付いた笑顔のまま「勿論、喜んでいるよ」と嘯いた。私が何故裏切って此処まで来たのか知らないのに関わらず馬岱殿は私を信用に値しない人物だと思い続けているのだ。なんて不愉快なのだろう、馬岱殿が私を是非に戦力として欲しいと言ったから来たまでなのに。



私は馬岱殿の瞳を見つめながら話した。本当を話した。「馬岱殿は私を戦力として見てくださるから来たんですよ」「どういう意味だい?」全く訳が分からないよと言った表情で飄々とした様子で言うもので、私は続けた。「曹丕は、両親を失った私を引き取ってくれました」「へぇ、それなのに裏切ってきたの?」益々信用成らないな、と言った様子を醸し出しているのに馬岱殿はお気づきだろうか。いや、気付いていないだろう、だって表面上は何も変わらない顔をしているのだから。そしらぬ、顔をしているのだから。「ええ、でも、曹丕は私を戦力以外に求めてきました。甄姫様がいらっしゃるというのに。私は酷く抵抗しました」馬岱殿の動きが止まった。



「それから、私は気づいたのです。曹丕が私を引き取ったのは、私を育てて、武人の私を殺すためだと」「そうだったん、だ……」馬岱殿が仄暗い瞳から僅かに信用に値する話だと思っているのだろう、私を見つめてきた。「だから、憎いんです。だから、信用してくださいよ、馬岱殿。私は、貴方が私を女として生かさない限り裏切りませんから」そう言った時馬岱殿は「俺はちゃんと名前殿を武将として見ているよ」と真っ直ぐに見つめ返してきた。初めてちゃんと交わった瞬間だった。

Title カカリア


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