スケープゴートは必要不可欠




夢主が死ぬ。


どうして、徐庶君が泣くんだい。私もまだ泣いていないのに、痛くて痛くて泣きたいのに。徐庶が泣いているから泣けないでいるよ。ほうぼうから聞こえる声も、蒼天も、じくじく痛む足や腕も千切れそうな程なのに。私より辛そうに泣くから。涙を拭ってあげたいのに、この腕は千切れそうな程の切込みが入っていて、痛くて持ち上がらないの。唯一、ぼろ雑巾の様に打ち捨てられている声帯だけが使える。「泣かないで、徐庶。泣かないで、これじゃ、私が泣けないじゃないか」本当は私だって泣きたいのに。痛いよ、死んじゃうよ、怖いよ。暗澹としていて死の先が何も見えないよ。



「だって、名前が……っ、どうして」「どうしてもこうしても無いさ。慢心したのだろう、武に関して。知略も必要だと言われていたのにな」魂は何処に行くと思う?そう問えば、君なら絶対に桃源郷に行けるって言われて強く抱きしめられた。汚い血がべっとりつくのも構わず、涙が宝石の様にキラキラ光を照り返して私の頬を濡らした。「でも、その前に。行くのはずっとずっと先だ、まだ名前は桃源郷には行かない、俺を……置いて、行かない……」ああ、そうか。私は徐庶を置いて行こうとしているのか。いつ、暗い底に連れて行かれるか怖くて仕方ない。瞬きをするたびに連れて行かれるんじゃないのか、不安で、しかも、ドクドクと不穏な音がする。徐庶を置いていったら誰が徐庶を守るんだろう?私が死んでしまったら、徐庶は……。



途端、涙が零れてきた。徐庶、置いていくことを許してくれ。死ぬのが怖いんだ。ああ、こんなことなら、兵法のなんたるかを、理解すべきだったのだ。あ、あ、意識が薄れていく。何か大切な事、言い忘れている気がする……、徐庶大好き。……駄目だ、駄目だ。もう何もかも遅すぎるのだ、言うべき時はもっと早くなければいけなかった。徐庶はただでさえ根暗で後ろ向きなのだからこんな死人の言葉を聞いてしまえばずっと引きずってしまうかもしれない。だから、これは胸の内に秘めたまま、あの桃源郷に行こう。「徐庶、どうか、御武運を」「待ってくれ!!頼むから!!逝かないでくれ!!」徐庶が珍しく声を荒げている。あははは、馬鹿だなあ。私は此処にいるよ、徐庶。大丈夫、何処にも行かない、怖いけど死んだらずっと徐庶の事守ってあげる。徐庶には見えない不思議な力でずっと守ってあげる。守ってあげる……。守って、あげる。


Title 彗星


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