イエスマンは死んだと君は言うけど




死ネタ。おまけで生還ルート付き。


戦から、沢山の傷ついた兵士や武将が帰ってきていた。どの兵士たちも、勇ましく誇らしげだった。埃と、血に塗れているが、皆凛々しい。ただ名前は黙ってその情景を眺めていた。夫である、馬超の帰りを待っていた。ひたすら目でそれらを見送りながらただ突っ立っていた。他の人が、再会を喜ぶ。皆笑顔を顔に浮かべながら喜ぶ。その光景を見て、胸が痛んだ。まだ、馬超の姿が見えない。やがて、時は過ぎ城下は夕日の色、茜に染まる。戦に勝利した、と聞く。今日は宴を開くだろう。名前は泣きそうになっていた。なんとなく、気がついていた。馬超は帰らないであろうということを。何故、彼の姿が見えないのか。そんな理由は単純なのに。ただ、何処か信じたくなかった。彼は強い。馬に誇り、武器を抱えた彼は強いと知っていたから。ありえない、と思っていた。だけど、心のどこかで思ってしまった。(彼は……戦で)



「ば、超……さ、ま」必死に彼の姿を探して、居もしない、彼の幻影を見て。ぬか喜びをして、泣き叫びたくて。もう一度その大きな手のひらで頭を撫でて欲しかった。彼の語る夢が美しく、大きなものであったから。大粒の涙が零れ落ちた。茜に反射して、地に落ちてゆく。着物にも落ちて、染みを作る。これは、馬超様に貰ったものなのに、とぼんやり頭の中で思った。「お前に似合うと思って、な」と、はにかんで。だから、名前はこの着物がお気に入りでよく着ていた。


悪い夢を見ていると、信じたかった。馬超が負けるわけがない、と。無事で帰ってきて欲しかった。ずっと、責めていた。“何故、私は戦に行く彼を止めなかったのか”頭の中はそれで一杯で他に考えられない。宴の、声が聞こえる。誰かの声が聞こえる。「このような場所にいられると、お風邪をひかれますよ」誰かが、名前に上着をかけた。よく耳にする声だった気がした。名前の耳には聞こえない、届かない。



救いを!




ふ、と誰かの暖かな手のひらが頭の上にポン、と優しくおかれた。この手のひらを名前は知っていた、涙でぐしゃぐしゃの顔をゆっくりとあげた。ぼやけた視界には、あの見慣れた金色の兜。「ただいま。何故、外にいるんだ?中にいないと、風邪引くぞ」あの優しい、はにかんだ笑顔を浮かべて優しくなぜる。血と土の匂いが鼻をついた。「……馬、超さ……なんで?生きていたのですか?まさか、化けておいでですか?それとも、幻覚ですか?」「生きてって、演技でもないな。俺は、生きている。正義の槍はこのようなことでは折れぬ!」


正義というのは彼の口癖で、信条だった。名前はそんな馬超が好きだった。誰かが言っていた。彼の正義は、相手にとっては悪だ、と。それでも彼が描く未来を、世界を見たくて一緒に居た。「お前に、涙は似合わん。泣くな。心配かけて、悪かったな……ほら、これやるから泣くな」ゴソゴソと、懐から何か小さなものを取り出してそれを名前に握らせた。「……なんですか、これ?」「髪飾りだ。城下で買ってきた。……悲しませて悪かったな。だけど、俺は絶対に負けない。お前を残して、逝くことなど正義に背くだろう?」コツンと軽く作った拳を名前にあてた。あふれた涙を拭いながら名前が「ええ」とその日初めて笑顔を零した。


title カカリア


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